命の砂時計 10

日も落ち、辺りが暗くなり始めた頃。
名前は夕食の支度をしていた。鍋に入ったスープを小皿に入れ、口に運ぶ。


「ん、おいしい」


大丈夫だと判断して、名前は鍋に蓋をする。あとは食器を用意するだけだ。
ふと、名前は事務所のテーブルに視線を移す。そこには、三日前に書いた手紙が白い封筒に収められて置かれている。


「……」


三日前を思い出して、気分が暗くなってしまったが、それを振り切るように名前は首を振る。
その時、扉の向こうからコンコン、とノックする音が響いた。
名前は顔を上げる。


(こんな時間にお客さん…?)


名前は首を傾げたが、仕事を頼みに来た人かもしれないと思い、車椅子を押して玄関に向かう。
ガチャリと扉を開け、名前は口を開く。


「はい、何の御用…」

『…見つけたぞ』

「!」


ゾクリとする声を聞き、名前は顔を上げる。
目の前には、男がいた。スーツにシルクハットといかにも紳士らしい出で立ちだが、口元は下卑た笑みを浮かべている。


『娘、その命、貰いに来た』

「!あなたは…!」


聞き覚えのある声に名前が後退ろうとした時、シルクハットで隠れていた男の赤い目が名前を射ぬいた。途端に、身体が力を失ったように動かなくなる。


「…!」

『もう、お前は身体を動かせなくなった。怖かろう?恐ろしかろう?』


嘲笑うように言い、男は顔を近づける。背に石でできた翼が生え、鋭い爪を携えた手が名前の背中に回る。


「あ…あ…!」

『静かなところで、魂ごとゆっくりと喰らってやろう』


身体が浮き、事務所から引っ張り出される。その拍子に車椅子が音を立てて倒れる。


(ダ、ンテ…!)


心の中で叫び、そのまま名前は意識を失った。

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