命の砂時計 5
ダンテの事務所につれられてきた名前は、来客用の革のソファに座っていた。
事務所に来てすぐにダンテが車椅子を取りに行ってくれたが、男の一人に力ずくで車椅子を倒された時に傷ついてしまったのか、片方の車輪の一部が破損してしまっていた。
「これじゃあしばらく乗れねぇな…」
「仕方ないよ。後で修理頼んでおくから」
気にしないで、とにっこり笑う名前。
ダンテはテーブルを挟んで向かいのソファに座ると、一息置いてから口を開いた。
「…で、話って何だ?…その足に、関係することなのか?」
ためらいがちにダンテが言うと、名前は目を見開く。そして、口を引き結んで、小さく頷いた。
「何でそうなったんだ?昔はそうじゃなかっただろ?」
「…悪魔の、せいなの」
名前が小さく呟いた言葉に、ダンテは目を見開く。
「一年前に、バイトの帰りに悪魔に会って…その時、呪いをかけられたの」
脚を擦り、名前は続ける。
「その呪いは、だんだんと身体が動かなくなる呪いで…日が経つごとに、足が動かし辛くなってきて…。…半年前に、動かなくなった」
名前は脚を擦っていた手を持ち上げる。
「最近では手も動かし辛くなってきて…時々、石みたいに動かなくなるの」
そう言うと、名前はダンテを見つめる。
「噂で聞いたの、ダンテは便利屋をやるのと一緒に、悪魔を狩る仕事をしているんでしょう?お願い…その悪魔を狩ってほしい。お金なら、ちゃんと払うから…」
だから、と続けようとした言葉は音にならなかった。―ダンテが、自分を抱きしめていたから。
「わかった、わかったから」
もう言わなくていい。
そう言って、ダンテは名前の頭を撫でる。
「辛かったよな、怖かったよな」
「…っ」
「大丈夫だから。絶対、助けてやるから」
「ふ、ぅっ…」
優しく、けれど強く響くダンテの言葉に張りつめていた緊張の糸が切れ、名前はポロポロと涙を溢す。
ダンテは名前の震える背中を、ずっと撫でていた。
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