愛でるなら優しい花を 15
「ようやく見つけたぜ…リアラも紅葉も無事か?」
「初代!」
「あ、初代!」
「おお、ようやく追いついたか」
「アンタが早いんだよ。リアラと悪魔の気配を察知するなりすっ飛んでいくから…」
「…ってことは、おっさまと初代は途中まで一緒にいたの?」
「ああ、依頼が終わって事務所に向かってたらたまたま途中で鉢合わせてな。合流して一緒に帰ってたんだが、リアラと悪魔の気配を感じたからな…すっ飛んできた」
「そうだったんだ…」
「とにかく、リアラも紅葉も無事なんだな?…!おいリアラ、お前右腕血塗れじゃねえか!」
「あ、えっと…」
「大丈夫だ初代、さっきまで悪魔の毒で血は出てたが、もう止まってる。しばらく安静にしてれば傷も治るだろ」
「…本当に大丈夫なんだな?」
「はい。ダンテさんが少し魔力をくれたおかげで毒も消えたみたいですし」
「ならいい。半魔っつっても痛いものは痛いんだから気をつけろよ」
「はい」
「よし、そろそろ帰るか。若と2代目も待ってるだろうからな」
おっさまの言葉に、リアラはあ、と声を上げる。
「晩ご飯の材料買ってない…」
「あ、そうだった!買いに行こうとしてこうなっちゃったから、すっかり忘れてた…!」
「今日くらいはいいだろ、なあ初代?」
「ああ、もうこんな時間だ、今から買い物に行って作るには遅い。それにリアラは怪我してるしな、今日は安静にしてろ」
「じゃあ、今日はデリバリーだな」
さっさとこの後のことを決め、おっさまと初代は動き出す。
「初代、紅葉のこと頼むな」
「ああ。紅葉、自分の荷物持ってこっちに来い」
「?…うん」
道に置いていた自分の荷物を持って紅葉が初代の元に戻ると、初代は紅葉をひょいっと抱え上げる。ーいわゆるお姫様抱っこだ。
「うわっ!?し、初代!?」
「お前、悪魔が怖かったんだろ、まだ足が震えてるぞ。そんなんで歩かせられないからな」
言われて初めて紅葉は自分の足が震えていることに気づく。悪魔に襲われそうになったこともそうだが、その悪魔がこの世界に来た当初に自分の足を捕らえた蔦と同じような蔦を身体に纏っていたからかもしれない。
「帰るまで大人しくしてろよ」
「…うん」
初代の気遣いに心が温かくなるのを感じながら、紅葉は大人しく彼に身を預ける。
「リアラ、ハンカチ持ってるか?」
「?…はい」
「なら、それで腕の血拭いとけ。服はここで着替えられねえから仕方がないが、血が付いたまま動きたくはないだろ?」
「え、でもダンテさんの手も…」
リアラの言う通り、彼の手も先程リアラの右腕の怪我の様子を見るために触ったせいで血がついている。気遣うリアラに気にするな、とおっさまは笑う。
「俺のはグローブで拭っちまえば大したことじゃない、だからお前が使え」
「…わかりました」
彼の気遣いに笑みを浮かべ、リアラはハンカチで右腕の血を拭う。粗方拭い取ったところで、おっさまが自分のコートをリアラにかける。
「日も落ちてきたから人通りは少ないだろうが、念のために、な」
「ありがとうございます、ダンテさん。…っきゃ!?」
礼を述べて歩き出そうとしたリアラは急な浮遊感に短い悲鳴を上げる。体勢を崩して寄りかかった場所の温かさに思わず上を見上げると、恋人の顔がすぐ近くにあった。
「え、あの、ダンテさん!?」
「大人しくしてろよー」
初代と紅葉のやり取りを聞いていたのか初代と同じ台詞を言い、ダンテは片腕で抱き上げたリアラを自分の方に寄せ、ケルベロスが持ってきた彼女の荷物をもう片方の手に持つ。
「よし、行くか初代」
「おう」
守るべき対象の二人を抱え、おっさまと初代は歩き出したのだった。
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