愛でるなら優しい花を 10

次に二人が見に来たのは服。二人共、服は事務所に来た時に最低限必要な分を買っただけだったのでせっかくだから、と見に来たのだ。


「春らしい服がいっぱいあるね」

「そうだね」


春といえば明るいイメージのためか、店内に並ぶ服は色とりどりで華やかに見える。二人はそれぞれ気になる服を手に取りながら話す。


「リアラは欲しい服ある?」

「うーん、特にはないかな…あ、でも羽織る物は欲しいかも。カーディガンとか」

「カーディガンかあ、他の服と合わせやすいし、私も探そうかな」


紅葉は店内を見回すと、カーディガンの並ぶ場所を見つけ、移動する。ハンガーに掛かるいくつものカーディガンを見ていた紅葉は、ある一着に目を留めた。


(あ、きれいな色…)


取り出したのはアイボリーのVネックのカーディガン。全体的に優しい色味で、焦げ茶のボタンが付いたそれはシンプルな作りをしている。いろいろと着回しがききそうだ。


(これ、リアラに似合いそう…)


そんなことを紅葉が考えていると、横から声をかけられた。


「何か見つかった?」

「あ、リアラ」


いつの間にか隣りに来ていたリアラが自分の持つカーディガンを見て、優しい色合いだね、と言う。


「リアラはこういう服好き?」

「うん、こういうシンプルな服は好きだよ。こういう服ばかりだから女の子らしさがないのかもしれないけれど…」


そう言って苦笑するリアラ。そういえば、彼女はレースやリボンの付いた服は着ていない。事務所での普段着はショートパンツで、動きやすさを重視した格好だ。今日着ているニットワンピースも見るのは初めてで、あまり自分のようなかわいい服を着ることはないのだとわかる。
けれど、と紅葉は思う。


「外見とか服だけで、女の子らしさって決まるのかな?」

「え…?」

「もちろん見た目も大事なんだと思うよ、けれど、中身はもっと大事なんじゃないかな」


リアラはきれいな女の子だと思う、同性の自分でもそう思う程に。けれど、それ以上に心がきれいで優しいと、事務所で暮らして、彼女と過ごして思ったのだ。
自分が事務所に暮らし始めて、一番に自分を気にかけてくれたのは彼女だった。事務所に暮らし始めた当初、寝る部屋を一緒にすることや着る服を買いに行こうと提案してくれた。同性ゆえの気遣いだったのだろうが、自分にはそれがありがたかった。それからも何かと気にかけてくれて、優しくしてくれた。悩みを聞いてくれたりもした。傍に寄り添ってくれるようなその優しさは、自分にとって心の支えの一つになっている。


「リアラは心のきれいな、優しい人だと思うよ。私はそれだけで充分女の子らしいと思うけどな」

「紅葉…」

「ねえ、リアラ」


彼女の方を振り返り、持っているカーディガンをちゃんと見えるようにして紅葉は確認するように尋ねる。


「リアラはこういう服、好きなんだよね?」

「う、うん」


リアラが頷くと、紅葉はよし、と満足気に頷いて見せたカーディガンを抱える。


「これ、リアラにプレゼントするね!」

「え、そんな、いいよ…!」

「いいの、私がリアラにあげたいの」


先程、雑貨屋でリアラに言われた言葉を返し、それに、と紅葉は続ける。


「この色、リアラがいつもつけてる髪留めと同じ色だから、絶対リアラに似合うと思うんだ」

「紅葉…」


彼女が大切にしている母からの贈り物は、彼女の髪色によく合っている。だから、同じ色のこのカーディガンも彼女に合うはずだ。紅葉の言葉にリアラは何かを考えるように目を閉じ、次には柔らかな笑みを浮かべた。


「…ありがとう。次に出かける時に着るね」

「うん、楽しみにしてるね!」

「もう少し、見て回ろうか。紅葉の欲しい服も見つけなきゃね」

「うん!」


大きく頷き、行こう!と紅葉はリアラの手を引いた。

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