愛でるなら優しい花を 3
二人で出来上がった料理をリビングのテーブルに並べていると、階段を下りる音と共におっさまが姿を現した。
「おはよう、リアラ、紅葉」
「おはようございます、ダンテさん」
「おっさま、おはようございます!」
まだ眠いのかあくびを噛み殺し、おっさまは二人のいるテーブルに近づく。
「お、今日の朝飯はパンケーキか」
「今日は紅葉が焼いてくれたんですよ」
「たくさん焼いたから、一杯食べてくださいね!バターは乗せてますけど、他に蜂蜜と苺ジャムも用意してますから!」
「そりゃあいい、リアラの作ったイチゴジャムは美味いからな」
笑顔を浮かべると、おっさまは自分の席に座る。料理を並べ終えると、リアラは他のダンテ達が眠る二階を見上げた。
「ある程度ご飯の準備できたし、若達を起こしてくるね」
「あ、私が行くよ!リアラはミルクティー作ってる途中だったでしょ、私が若達を起こしてる間に作ってて!」
「ありがとう、紅葉。じゃあお願いするね」
「うん!」
元気よく頷いて、紅葉は駆け足で階段を上がっていく。その姿を見送ったリアラが紅茶用のお湯が沸いたか確認しようと踵を返そうとした時、おっさまが声をかけてきた。
「リアラ」
「はい、何です…」
か、そう言い終わる前に、頬に柔らかなものが当たる。すぐ近くにあった恋人の顔に、キスをされたのだとわかってリアラは顔を真っ赤に染める。
「なっ…!」
「おはようのキス、な」
そう言うと、おっさまはククッ、と喉を鳴らして笑う。
「まだ慣れないのか?本当に初だな、リアラは」
「慣れられるわけないじゃないですか…!」
叫びたい衝動を堪えてリアラは言う。
毎回ではないものの、元の世界でも彼が依頼に行く時、帰ってきた時に額にキスをされていた。人のいないところでならいいが、他の人がいる前でもやるものだから、その度に人前ではやらないでください!と怒ってきた。今なんて同じ場所に彼の他に三人のダンテと紅葉という女の子がいて人目がある。それをわかってくれてか、人前でキスはしないようになった…かと思ったのだが、彼らが見ていないところで隙を突いてキスをしたり、後ろから抱きしめられたりと、結局普段と変わらなかった。いや、今の方がたちが悪いと思う。
「お願いですから、みんなから隠れてこういうことをするのはやめてください!」
「じゃあ、堂々とすればいいのか?」
「〜っ!」
わかっていて言う意地悪さにそういうことを言ってるんじゃないです!と内心叫び、拳を握りしめたその時。
ピーッ!
「!」
お湯が沸いたらしく、ケトルが注ぎ口から水蒸気を吐き出す時の独特の音がキッチンから響く。その音で我に返ったリアラは恋人に背を向ける。
「紅茶を淹れてきます!!」
顔を真っ赤に染めたまま、リアラは早足でキッチンに戻る。恋人の反応がかわいくて、おっさまはまたククッ、と喉を鳴らして笑うのだった。
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