愛でるなら優しい花を 1

私がここにやってきた理由を説明するのは難しい。なんせ、突然のことだったから。
もう一ヶ月前だろうか、私はいつものように大学に行って、夕方、家に帰るために電車に乗っていた。いつものこと、毎日の繰り返しーのはずだった。
なのに、少し目を閉じていた間に乗っていた物は汽車に変わっていて、持っていたはずの物がなくって。そうこうしている内に汽車が止まって、おそるおそる降りた先にあったのは、見渡す限り木々に囲まれた森。とても先に進む勇気はなくて、汽車に戻ろうと後ろを振り返った時には汽車の姿はなかった。何とか足を踏み出したけど、恐怖で足が竦み、それ以上動けなかった私は、狼のようなものに襲われた。必死に走って逃げたけど、途中で足に絡まった蔦で転んで、逃げられなくなって。狼のようなそれがこちらに向かって飛びかかってきて、思わず目を瞑った、その時。
辺りに響いた銃声に目を開けた私の視界を埋めたのは、四つの赤い布。私を助けてくれたのは、私の大好きなーゲームで何度も見てきた、けれど、画面の向こうの世界にしかいないはずの、ダンテだった。周りにいた狼の群れを倒した彼らは、自分達の名前を知る私を訝しがりながらも、私の足に絡まる蔦を切り離し、怪我をした私を抱えて彼らの事務所に連れて行ってくれた。それだけでも私はだいぶ混乱していたのだけど、その後、更に驚くことになった。
彼らの事務所ー『DevilMayCry』に到着し、抱えられたまま彼らと一緒に中に入ると、「お帰りなさい」と出迎えの言葉が聞こえ、奥から一人の女の子が姿を現した。私と同じくらいの歳に見えるその子は彼らの目と同じアイスブルーの髪を持っていて、とてもきれいな子だった。こちらに走り寄ってきた彼女は私に気づくと深い青色の目を向けてきて、「この方は…?」と首を傾げた。髭の生えたダンテが簡単に経緯を説明すると、事情を理解した彼女は私の足を見て、「氷を持ってきますね」と言って、一度キッチンに姿を消した。ソファに降ろされ、年長のダンテが足の怪我を診てくれていると、先程の女の子が氷の入った袋を持ってきて「これで足を冷やしてください」と私に渡してくれた。
ようやく気持ちが落ち着いたところで、目の前のソファに座った左目の隠れたダンテが自分達の紹介をし、次いで私の側に立っていた女の子が自分の自己紹介をしてくれた。彼女の名前はリアラ、というらしい。彼らと同じ半魔だそうだ。私も自分の名前を名乗り、なぜ彼らの名前を知っているのか説明した。何とか理解してもらえたところで、私も二つ質問をさせてもらった。一つは、あのゲームのシリーズには時間軸があって、同じ時間軸に同一人物がいるはずはないのに、なぜこうやってそれぞれの時間軸のダンテがいるかということ。そしてもう一つは、なぜ彼女ーリアラが存在しているのか、ということだった。ゲームの中にはトリッシュやレディ、ルシアやキリエちゃんという女性達はいても、『リアラ』という女性は存在していなかった。こちらではファミリーネーム、といえばいいのだろうか、日本でいう苗字に『フォルトゥナ』と付いていることから、ダンテにー特に髭の生えたダンテと関わりを持つ子なのだとはわかったのだけれど。戸惑いながら尋ねた私に答えてくれたのは、ソファの背もたれに寄りかかっていたその『ダンテ』本人だった。
彼曰く、一ヶ月程前にこの世界ー年長のダンテの世界に自分も含めた各時間軸のダンテが集まったらしい。けれど、それは同じ時間軸のダンテではなく、それぞれの平行世界から飛ばされてきたダンテらしく、過去に体験した出来事が少しずつ違っているそうで、彼のいる世界は彼女が存在しており、元の世界では彼女と一緒に事務所に暮らしているとのことだった。しかも、彼女は恋人とのことで、その事実が一番の衝撃だったことは今でも記憶に新しい。彼らがこの世界に飛ばされてきた一週間後、彼を探していた彼女もこの世界に飛ばされてきて、事情を知った彼らと一緒にこの事務所に暮らしている、ということだった。
まあ、何というか、そんなこんなでいろいろと話をして、結果としてはここで彼らと暮らしつつ、帰る方法を探すことになった。外で仕事はできないから、事務所内の家事をやる住み込み家政婦、という形で仕事をもらい、働かせてもらって今に至る。忙しないけれど、毎日が賑やかで楽しくって、私はそれなりに今の生活が好きだ。

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