本当に大事なもの 5

もうどのくらいの時間、戦っているだろうか。建物の壁に手をつき、バージルと悪魔の戦いを見ながら名前は思う。無数の青い剣と影の矢が飛び交い、刀と角が幾度も交差する。悪魔の角は折れても復活し、バージルの身体に傷をつけていく。名前の目には、バージルが押されているように見えた。


(バージル…)


自分では何もできない、けれど、彼が傷つく姿は見たくない。心の中では二つの気持ちがせめぎ合っている。
けれど。


(大丈夫、バージルはあんな悪魔に負けない)


いつだって、彼は自分の元に帰ってきてくれた。怪我をしてくることはあったけど、それでも、ちゃんと帰ってきてくれた。
だから。


(私が、信じなきゃ)


胸元をギュッと握りしめ、名前は真っ直ぐに前を見る。その時だった。

キィン!

「!」


バージルの持つ閻魔刀が悪魔の角を切り落とした。先程まで再生していたはずの角は元に戻る気配は見せず、悪魔は苦しそうに呻く。分身を維持することができないのか、影は足元から崩れ落ちて消えていく。


「そこまで弱れば、もう再生はできまい」


狙いを定めるように閻魔刀を構えると、バージルは地を蹴り、悪魔の頭目掛けて閻魔刀を突き刺す。悪魔の額にある石が抉り取られ、空中に高く舞い上がる。


「これで終わりだ」


空中を睨み、バージルが目にも留まらぬ速さで無数の斬撃を繰り出す。次の瞬間、空中に浮かんだ石に無数の斬撃が叩き込まれ、バラバラになった。悪魔は叫び声を上げて消え、いくつもの欠片となった石も黒い煙を上げながら消えていった。


「バージル!」


静寂が戻った中、ガクリとバージルが膝をつく。建物の影から飛び出し、名前はバージルに駆け寄る。彼の身体には所々に痛々しい傷がつき、青いコートは赤い色に染まっていた。


「この程度の傷、どうということはない」

「あるよ!傷だらけじゃない…」


閻魔刀を掴むバージルの手を両手で掴み、名前は目を潤ませる。俯いてしまった名前を見つめると、はぁ…とバージルはため息をつく。


「家に帰るぞ。肩を貸せ」

「あ、うん…」


よろめく彼に肩を貸し、様子を見ながら名前は暗くなった帰り道を歩き出した。

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