本当に大事なもの 1
「ふんふん、ふふーん♪」
鼻歌を歌いながら鍋の中をお玉でかき混ぜていた名前は小皿に味見分のシチューを取り、口を運ぶ。
「うん、美味しくできた」
満足そうに頷くと、名前は棚から皿を取り出す。シチューを皿に盛り、先に用意していたサラダなどと一緒にテーブルに置くと、同居人を呼びに向かう。
「バージル、ご飯できたよ」
「ああ」
名前がリビングに顔を出すと、ソファーに座って本を読んでいた同居人−バージルが顔を上げる。本を閉じる彼に近寄り、名前は首を傾げる。
「今日は何読んでたの?」
「各地に残る悪魔の伝承について書かれた本を読んでいた」
「そうなんだ…それって、バージルのお父さんのことも載ってるの?」
「さあな、まだ読み始めたばかりだからわからん」
そう答えると、バージルはスタスタと歩いていく。名前も彼についてダイニングへ向かう。
席に座り、挨拶をして二人は食事を始める。
「どう?美味しい?」
「まあまあだな」
「もう、またそういうこと言う…」
なかなか美味しいと言ってくれない同居人にむくれつつも、いつものことなのですぐに気持ちを入れ替える。
「そうだ、例の本のことだけど、明日ダンテの事務所に取りに行ってくるね。バージル、明日は依頼が入ってるでしょう?」
「ああ、あの本か。依頼さえ入っていなければ俺が取りに行ったものを…」
名前の口から出た名前に、バージルは顔をしかめる。
ダンテはバージルの双子の弟で、自分達が住む場所から少し離れたスラム街に事務所を構えて住んでいる。あまり仲はよくないのか、会う度に口喧嘩をし、武器を出しての喧嘩になることもしばしばある。それに、自分がダンテのところに行くのが嫌らしく、余程のことがない限り、一人では行かせてくれない。
「仕方がないよ、入っちゃったんだし。本受け取ったらすぐに帰ってくるよ」
「…あまり遅くならない内に帰ってこいよ」
「わかってるよ」
渋々といった体で言う彼に苦笑し、名前はシチューを口にした。
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