赤い幸せ 1
窓を開けた瞬間流れてきた柔らかな風に緋紗は目を細める。
「いい天気…今日は洗濯物がよく乾きそうですね」
空に輝く太陽は穏やかな光を地に降らせ、風と相まって心地よい空間を作り出している。風が髪を撫ぜるのに身を任せながら、緋紗は今日一日のやることを考える。
「まずは洗濯をして、その間に事務所の掃除をして…お昼頃にはダンテが帰ってくるから…」
珍しく入った依頼でダンテは朝早くから出かけている。昼頃には帰ってくると言っていたから、仕事を終えて帰ってきた彼のためにも美味しい食事を作らなければ。そう考えていた緋紗は、ふいに鼻に届いた甘い匂いに視線を巡らせる。
「…あ」
緋紗の視線の先には窓辺に置いていたワイルドストロベリーの小さな鉢。一ヶ月程前に白いかわいらしい花を咲かせ始めたそれは、一つだけ小さな赤い実をつけていた。
「ふふ、かわいい…」
鉢をそっと持ち上げ、じっと見つめていた緋紗の口元が緩く弧を描く。育て始めた時にいろいろと不安はあったが、こうやって成長した姿を見ると感慨深く嬉しいもので、本で見ていたよりもかわいらしく見える。
「洗濯をする前に水をあげましょうか」
ダンテが帰ってきたら真っ先に知らせようと心弾ませながら、緋紗はジョウロを取りに踵を返した。
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