あなたと一緒なら 7
「そうだったんですか、せっかくの誕生日なのに災難でしたね」
「けど、お陰で助かりました。本当にありがとうございます。お茶までご馳走になってしまって…」
「ここで会ったのも何かの縁です、大した物ではないですけど、受け取ってください」
頭を下げる紫乃に、女性ーリアラは微笑む。
街の広場までやってきた二人は、リアラの買ったミルクティーを片手にベンチに座ってとりとめのない話をしていた。
先に紫乃が名を名乗ると、リアラも名を名乗り、仕事でこの街に来たのだと話してくれた。仕事までにはまだ時間があり、暇潰しに街内を回っている時にたまたま紫乃の声を聞き取ったらしい。そして今に至る、というわけだ。
「ダンテ、私のこと探し回ってるだろうなあ…」
「それほど広い街じゃないので大丈夫ですよ。きっとすぐ会えます」
そう言ってリアラが微笑んだ、その時。
「紫乃!」
遠くから聞き慣れた声がして、紫乃は顔を上げる。人混みの中からこちらに向かって走るダンテの姿が見え、紫乃は思わず立ち上がる。
「ダンテ!」
「よかった、見つかって…。怪我とかしてないか?」
「ええ、大丈夫よ」
再会できた安心感に、二人の顔が綻ぶ。二人の様子を優しい顔で見つめ、リアラは立ち上がる。
「すぐ見つかってよかったですね。じゃあ、私はこれで失礼します」
「あの、何かお礼を…」
「当然のことをしたまでです、気にしなさらないでください。いい誕生日になるといいですね、紫乃さん。じゃあ、失礼します」
ペコリと頭を下げると、リアラは足元に向かって行こっか、ケルベロス、と声をかける。ワン!と鳴いて立ち上がった犬ーケルベロスを連れて、リアラは人混みの中へと消えて行った。
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