漆黒の闇に踊る 8
夕食が終わり、リビングが静かになった頃。
リアラとネロは夕食の後片付けをしていた。
「はい、これで終わり。お疲れさま、ネロ」
「リアラの方が大変だっただろ、お疲れ。それにしてもおっさん達、相変わらずピザ好きだよな…一人何切れ食ったんだ?」
リアラに渡された最後の一皿を拭き終え、ネロは数分前の出来事を思い返す。
この事務所で愛称で呼ばれている彼ら―『ダンテ』はピザが好きでその上よく食べる。そのため一枚二枚では足りず、たくさん焼かなくてはならないのだ。一枚焼いて、バージルの分の別の料理も作り、二枚目を焼いている間に夕食を始める。リアラは彼らのため(自分達の分も含まれているが)にせっせとピザを作り、焼いている間だけ自分も食べる形になっていた。
リアラは苦笑しながら告げる。
「焼いたのは6枚くらいかな。ダンテさん達だけだと、一人一枚は食べてるんじゃないかな?」
「一人一枚かよ…俺はそんなにいらないな」
「ふふっ…。今度は、ネロの好きな物にしようね。何か食べたいのがあったら言って」
「いいのか?」
「うん。ダンテさん達が好きなの食べたんだから、ネロも好きなの食べていいんだよ」
「…そっか。ありがとな、リアラ」
「いいえ」
穏やかな笑みを浮かべたネロは、ふいに何か思い出したようにリアラに言う。
「そういえば、明日おっさんの誕生日だろ。どっか出かけるのか?」
「うん、一応、出かけようとは思ってる。仕事終わったばかりだから、ダンテさんに聞いてみるけれど」
そう、ネロの言う通り、明日は髭の誕生日だ。今回の仕事がいつ終わるかわからなかったため計画は立てていなかったが、何かしらお祝いしようとリアラは思っていた。
そっか、とネロは頷く。
「おっさんなら喜んで頷くだろ、恋人から誘われてるんだからさ」
「もう、ネロったら…でも、ありがとう」
照れながらリアラはお礼を言う。
リアラと髭は付き合っており、この事務所では周知の事実だ。
元々幼なじみだった二人は付き合いが長く、お互いの父親が同じスパイだったためか、二人も自然とこの世界に入った。付き合いも長ければお互いのこともよくわかっているわけで、仕事ではよくコンビを組んでいた。関係が変化したのは一年前で、髭からの告白により、二人は幼なじみから恋人の関係になった。時々仕事で髭がふざけたりするため、リアラが怒ったりはしているが、仲がよく、見ていて微笑ましかった(まあ、髭によるスキンシップが多く、イチャイチャしているように見えなくもないが)。
その時、キッチンの入口から声が響いた。
「おーい、風呂上がったぞー」
「あ、ダンテさん」
声の主は髭だった。先程の話から気を遣ってか、ネロは入口へと向かう。
「じゃあ、俺シャワー浴びてくる」
「あ、うん」
そう言ってキッチンからいなくなったネロを見送ると、リアラは髭に話しかける。
「あの、ダンテさん」
「ん?どうした?」
首を傾げてこちらを見る髭に、リアラは話を切り出した。
「明日なんですけど…」
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