世界を超えて 9
「私のことを恨んでくれていいから…生きて…」
そう言うと、女はアームカバーを捲り、自分の腕に噛みついた。驚きに目を見開くダンテの前で女は傷口から流れ出した血を口に含むと、ダンテに顔を近づけて口づけた。
「―っ!」
口の中に血の味が広がり、ダンテは驚きに思わず血を飲み込んでしまう。飲み込んだ瞬間、血が逆流するような感覚に身体が熱くなり、びくりと身体が痙攣する。
「…っ、っ」
はっ、と荒く息を吐いて奇妙な感覚を何とか耐える。女は心配そうにダンテの手を握る。
しばらくしてようやく奇妙な感覚がなくなり、ダンテはゆっくりと目を開ける。
「…大丈夫?」
なぜか女の声が頭の上から聴こえる。不思議に思ってダンテが自分の頭に手を伸ばすと、ふさふさとした物に当たった。
「耳…?」
三角の形をしたそれは温かみがあって、時折ピクピクと動く。まさかと思い、起き上がって腰にも手を伸ばすと、毛の長い、ふさふさとした物に触れた。尾だ。
ダンテは、女と同じ姿になっていた。
「……」
俯く女に、ダンテは静かに問いかける。
「…俺は、あんたと同じになったのか?」
「…っ、そうよ。これしか、助ける方法が見つからなかった」
膝に置いた手を握りしめ、女は苦しそうに言葉を吐き出す。
「何が変わるんだ?」
「よほどの怪我じゃなければ、すぐに治るわ。あと…そのうち、成長が止まる。人間から私と同じような存在になったから、一年か二年で止まると思う」
「あんたは?」
「私は人間の血が混ざってるから…もう何年かかかるわ。たぶん、あなたと同じくらい」
「ふーん、じゃあ、一緒ってことだ」
ダンテの言葉に、女は目を見開いて顔を上げる。
「怪我もすぐに治るし、そのうち歳も取らなくなるんだろ?便利な身体じゃないか」
「…人間(ひと)と、違うのに?」
「違うったって、見た目はそんなに変わらないだろ?大したことじゃない」
「…私を、恨んでないの?」
小さく呟かれた言葉に、ダンテは苦笑して女の頬に手を添える。その手にも、女と同じく鋭い爪がついている。
「あんたは、俺を助けてくれただろ。今も、昔も。なのに、なぜあんたを恨む必要がある?」
「で、も…」
「俺はあんたに感謝してる。あんたが自分を責める必要はない」
「ダ、ンテ…」
「…やっと、名前で呼んでくれたな」
フッ、と笑うと、ダンテは女に顔を近づける。
「……っ!」
音もなく唇が重なり、女は目を見開く。ダンテは顔を放すと、女に告げた。
「…俺は、あんたと生きるよ。あんたと同じ存在なら、あんたとずっと一緒にいられる。…心優しいあんたと」
そう言うと、ダンテは微笑む。
「…好きだ」
「…っ!」
ぽろり、と女の目から涙が零れ落ちる。ダンテが涙を拭ってやると、女が小さく口を動かした。
「…ラ…」
「ん?」
「リアラ…私の、名前…」
告げられた名にダンテは目を見開くと、次の瞬間には嬉しそうに微笑む。
「リアラ、好きだ」
「私も…ダンテ…」
再び唇を重ねた二人を祝福するように光が優しく照らし、いつの間にかリアラを慕って戻って来た動物が遠くから二人を見守っていた。
***
たまごねこ様のサイトが10000hit&一周年ということでお祝いに書かせて頂きました!時間かかっちゃって、ごめんなさいm(_ _;)m
以前、私のサイトが10000hitした際に頂いた『狼は赤ずきんに恋をした』パロの絵からイメージして書かせて頂きました。予想以上に長く…(^ ^;)
前半はダンテ視点で書いてみましたが、いかがだったでしょうか?長編とちょっと設定の違う夢主を書いてるのも楽しかったです(*^^*)
原曲は違う終わり方なのですが、管理人がハッピーエンドにしたいがためにこうなりました(笑)幸せな方がいいじゃない!
たまごねこ様、10000hit&一周年おめでとうございます!
2014.2.10
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[mokuji]
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