世界を超えて 8
「止めろっ!」
パァン!
突如、男の声が響いたと共に、銃声が響き渡る。いつまでたってもこない痛みに女が目を開けると、
「…っ!」
女の目の前には、男が立っていた。赤いずきんを被ったその後ろ姿は、4日前に見たもので。
目を見開いた女の前で、男の身体がゆっくりと崩れ落ちる。動きを止めてしまった女の耳に、自分を狙っていた男の悲鳴が届く。
「に、人間を撃っちまった…!」
「に、逃げろ!」
「うわぁぁぁ!!!」
口々に言い、男達は逃げていく。
しん…と静まり返った中、崩れ落ちるように女は膝をつく。
「どうして…」
やっとの思いで女が呟くと、男―ダンテは苦しそうに息をしながら告げる。
「あんたに会って、いいたいことが、あったから、な」
そう言うと、ダンテは女を見つめる。
「あの時、助けてくれて、ありがとうな。それと、あんたを傷つけるようなことをして、すまない」
「そのために、わざわざここに…?」
「ああ」
ダンテが頷くと、女は俯き、呟く。
「私のせいで、こんなことに…」
そう言うと同時に、頬を一筋の涙が伝う。それに気づき、ダンテは女の頬に触れる。
「泣かないで、くれ…これは俺がやりたくて、やったことだ、あんたのせいじゃない」
女の頬に伝う涙を拭うと、ダンテは微笑む。
「笑って、くれよ…あんたの笑顔が見たい」
「…っ、」
堰を切ったように女の目から涙が溢れる。女はダンテの胸に顔を埋めると、か細い声で言う。
「逝か、ないで…」
お願い、だから。泣きじゃくる女の頭を優しく撫でるダンテは、次の瞬間、予想もしなかった言葉を聞いた。
「好き、なの…あなたのことが」
動きを止めたダンテに、女は自分の気持ちを話し始める。
「あれからずっと、あなたの成長を見てきた…。きれいに成長していくあなたを見て、私はいつの間にか、あなたを好きになってた。外見だけで好きになるなんて、って思ったけど、それだけじゃなかった。40年前に言われた、あの言葉が忘れられなかった」
ありがとう。あの一言が、どれだけ自分の心に沁みたか。
「手紙と花までもらって、嬉しくてしょうがなかった。人に優しくされたのは、初めてだった。だから、あなたの様子を見守ったの。助けたいと、思ったの」
当時、貧しかったダンテの家に毎日欠かさず木の実や魚を持っていったのはそのため。心優しい彼を、助けたいと思った。
「魔狼の身で、そんなの叶うわけないってわかってた。だから、この気持ちを仕舞い込んだ。ただ、見守るだけにした」
ある程度ダンテが成長してからは家に行くのを止め、ほとんど町には寄りつかなくなった。それでも、時々は様子を見に行って。彼を見守っていた。元気そうな彼を見るだけで、それだけで幸せだった。
「ごめんなさい、ごめんなさい…」
何度も繰り返すと、やがて顔を上げ、女はダンテを見つめた。
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