世界を超えて 7

―一方、山では。


「見つけたぞ、化け物め!」


山の中心にある開けた場所。そこに、町の男達が集まって銃を構えていた。その先にいるのは、狼の耳と尾を持つ、人の姿をした、人ならざる女。


「俺達の生活の糧である牛や馬、果てには人を襲いやがって!許さねえぞ!」


銃を向けられても動じず、女ははぁ、とため息をつく。


「お前達は、襲われたという家畜や人を見たことがあるのか?その現場を、見たことがあるのか?狼の足跡があったか?」

「うるせえ!黙れ!」


集団の一人が女のこめかみに銃の先を押しつける。女は、淡々と話を続ける。


「噂だけで私を化け物扱いし、殺すのか?愚かだな。真実を見ようとはしないのか?」


射抜くように冷たい目を向けられ、男はひっ、と声を漏らす。
その時、女の正面にいた男が口を開いた。


「嘘をついて言い逃れをするつもりか?化け物め」


ガチャリ、と音を立てて銃を突きつける男を見つめ、女は口を開く。


「…お前がこの元凶か。欲だらけだな、目が濁っている」

「お前がどう言おうが、ここにいる奴は誰もお前の言うことを信じはしないさ。…さ、化け物にはとっとと死んでもらおうか」


そう言い、男は女の額に狙いを定める。女はゆっくりと瞼を閉じる。
人が来る前に山の動物達は逃がした。きっと今ごろ、違う山に逃げただろう。母の墓のある場所を血で染めたくはなかったが、死ぬならせめて、ここで死にたい。ちょっとしたわがままだ。
ただ、一つだけ心残りなのは。


(父様の守った山を、ちゃんと守りたかった…)


まだまだ未熟な自分はこれから経験を積んで、一人前にならなければならなかったのに。


(ごめんなさい、父様…母様…)


先代の山神である父、自分を優しく温かな心で育ててくれた母に心の中で詫びる女に、男は銃の引き金を引いた。

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