世界を超えて 6

「………」


あれから3日が経った。
あの日から俺は家に籠り、ずっと考えに耽っていた。
思い出すのは、幼い頃に見た彼女の優しい笑顔と、4日前に再会した時に見たどこか傷ついたような顔。相反する二つの顔が、俺の心を苛む。


(俺は…彼女を傷つけたのか…?)


「私を殺しに来たの?」、そう問うてきた彼女は悲しそうな顔をしていて、思い出すと胸が苦しくなる。
あの顔は、町の人間に対してだったのか?いや…俺だから?


(俺の名前も、覚えてたんだな…)


名前を教えたのはあの手紙に名前を書いた時一度きりだというのに、彼女はちゃんと俺の名前を覚えてくれていた。それに、成長して姿が変わっていたというのに、彼女はすぐに俺だとわかってくれた。
じわり、と胸に温かなものが滲む。


(何なんだ…?この感覚は…)


今まで感じたことのない感覚に頭が混乱している。ただ、そんな中でも一つだけはっきりしていることがあった。


(笑顔を、見たい)


悲しむ顔や辛い顔ではなく、心からの笑顔が見たい。長老の前で手紙のことを嬉しそうに話したという、彼女の笑顔を。


(もう一度会ったら、この感覚の正体もはっきりわかるかもしれない)


本当は、あの頃からもう一度会いたいと願っていたのだ。会って、直接お礼を言って、たくさん話をしたいと。母が死んでからは、それすらも忘れていたが。


「…会いに行くか」


会って、あの時のお礼と4日前の謝罪をしよう。話はそれからだ。
ベッドから起き上がり、身支度を始めたダンテの耳に、突然扉を叩く音が響いた。


「ダンテ!いるか!?」


長老の声だ。何か切羽詰まったような声に、ダンテは急いで二階から下り、玄関の扉を開ける。
走ってきたのか、長老は荒く息を吐き、大きく肩を上下させている。


「どうしたんだ、じいさん。そんなに息を切らせて…」

「町の男達が、山神様を狩りに山に向かった!」

「!」


長老の言葉にダンテは大きく目を見開く。


「『魔狼は害獣だ、もうその存在を無視できない、だから狩る』、と…。あの方が何をしたという!ただ、山を見守っているだけなのに…!」

「じいさん、そいつ等はいつ山に向かった!?」

「ついさっきだ、銀の銃弾の入った銃を携えて向かった。銀の銃弾で撃たれたら、あの方は死んでしまう…!」


銀の銃弾―唯一、魔狼を殺せると言われる物。
そんな物で撃たれたら、魔狼である彼女は―。


「…っ、じいさん、俺は山に向かう!じいさんはここで待ってろ!」


ダンテは急いで家を出ようとしたが、長老に腕を掴まれる。
長老はダンテを見上げて告げた。


「…山を登る途中に、日当たりのいい開けた場所がある。あの方の、母親の墓がある場所だ。あの方はきっと、そこにいる」


その言葉に、ダンテは目を見開く。すがるように、長老は言った。


「頼む、あの方を…」

「…わかった、ありがとな、じいさん」


強く頷き、ダンテは山に向かって走り出した。


(頼むから、間に合ってくれ…!)


彼女に言いたいことがたくさんある。このまま別れるわけにはいかないのだ。
強く願い、ダンテは彼女のいる山を見つめた。

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