世界を超えて 5

「あちらも私に気づいたようで、深く礼をされた。どうしたのかと尋ねると、『鳥達の話を聞いて、心配になって来たんです』と。だが、遅かった、と項垂れていたよ」

「…何で…」

「ずっと、君達親子を見守ってきたからだよ。君を助けたあの日から、ずっと」

「ずっと…?」

「ああ。あの後、何度か君の家に行って、君達親子が貧しい暮らしをしていると知ったあの方は、毎日、決まった時間に木の実や魚を家の前に置いていたらしい。君達が食べる物に困らないように」


そういえば、とダンテは思い出す。
あれからしばらくした後、毎日欠かさず日が暮れた頃に木の実や魚が玄関前に置かれるようになった。誰が置いてくれるのかはわからなかったが、貧しい暮らしをしていた俺達にとってはありがたいことで、姿も知らぬ相手に日々感謝しながら暮らしていた。…俺が16になる頃には、ぱったりと途絶えてしまったが。


「君が15歳になってからは、もう立派に成長したし大丈夫だろうということで少しずつ回数を減らして、16になる頃にはきっぱりと止めたらしい。…あの頃は、魔狼について悪い噂が出始めた頃だったからね」


ああ、そうだった。あの頃、魔狼の存在について、「化け物だ」なんて考えが出始めていて。その頃は彼女に助けてもらったことを時々思い出すくらいで、19にお袋が死んでからはそれすらしなくなっていた。


「あの方が言っていたよ。『人にお礼を言われたのなんて初めてでした』、とね。君からもらった手紙と花がとても嬉しかったらしい、『母の墓前に供えました』、とも言っていたよ」

「……」


正直、驚いていた。そんなに喜ばれるとは思っていなかったから。ただ、同時に素直に嬉しいと思えた。それだけ喜んでくれたんだ、と。
長老はゆっくりと立ち上がる。


「また会うも、もう会わないも君次第だ。じっくり考えて決めなさい」


そう言い残し、長老は去っていく。長老の後ろ姿を見つめながら、俺は一つため息をついた。

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