世界を超えて 4

「山神様は見つかったかね?」


町に戻り、家の庭で座って休んでいた俺に町の長老が話しかけてきた。山神様―魔狼のことだ。
俺は長老から顔を逸らす。


「…いや」

「そうかそうか」


朗らかに笑い、長老は俺の隣に腰を下ろす。


「あの方はどうしておられるのか…あれ以来、一度も会っていないのう」


まるで会ったことがあるかのような口ぶりに、俺は思わず聞き返す。


「あんた、会ったことがあるのか?」

「あるよ。もう20年も前のことだがね。あの時は先代の山神様といらっしゃってな、白い狼の姿で、とても神々しかったよ」

「先代?あいつに両親がいるのか?」

「命の営みは私達と何ら変わらない。あの方にも両親はいるよ。先代の山神様である父親と、人間の母親が」


その言葉に、俺は目を見開く。


「母親が人間?人間が魔狼と結ばれるなんてできるのか?」

「もちろん、周囲の反対はあったさ。だが、彼女は自分の気持ちを貫いた。唯一彼女の両親が味方してくれて、最後には結ばれたよ」


昔を懐かしむかのように、長老は目を細める。


「私が姉のように慕っていた人だった…美しい人で、誰にでも分け隔てなく接する人だったよ」

「…今は」

「もう亡くなっているよ。お二人にお会いした時に亡くなったと聞いた」


静かに、長老は答える。


「魔狼は私達人間より身体の成長が遅い。魔狼が成長を止めるという50歳で20代前半の姿と言われておる。男女によって違うらしいが…。それ以降その姿で何百年も生きるらしいが、人間の血が混じっているためか、あの方は少し成長が早いと先代の山神様がおっしゃっていた。私が会った時で16・7歳らしいから…君を助けた時には少女のような姿をしていたということになるね」


そう言って微笑む長老に、ダンテは目を見開く。


「…覚えてたのか」

「よく覚えているよ。街から帰ってきた君が私に嬉しそうな顔で『俺、山神様に会ったよ!』と言ったからね」

「あの後、お袋にこっぴどく叱られたな」


苦笑しながら俺は言う。長老も笑うと、ああ、と思い出したように言った。


「そういえば、あの後君は山に手紙と秋桜を置いてきたんだったかな?」

「ああ。…本人が受け取ったかどうかはわからないけどな」

「…受け取っているよ。本人から聞いたからね」


苦笑混じりに言った言葉に思わぬ返答をされて、俺は目を見開く。


「本人、から…?」

「ああ。お二人に会った10年後…君のお母さんが亡くなった日だった。君のお母さんを看取って家を出た時、ふと何かの気配を感じてね、家の裏手に回ったら、あの方がいたんだ。昔より少し、成長した姿でね」


長老は静かに話し始める。

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