世界を超えて 3

「今まで、私に襲われたという人や動物を実際に見たことがある?噂が一人歩きしているんでしょう?」


確かに、彼女の言う通り、実際に襲われたという人や家畜を目にしたことがない。自分ではないと言う彼女が嘘をついているようには見えないし、そう考えると今までの噂は嘘ということになるのだろう。


「自分達で好きなように山の木を切ったり、動物達を狩ったりするのに、私が邪魔だからってそういう噂を流すのね。…あなたは、私を殺しに来たの?」

「…っ」


どこまでも見通すような瑠璃色の目に、俺は言葉を詰まらせる。


「神と崇めたり、化物と疎んだり…人間は自分勝手ね」

「……」

「わかったらもう帰りなさい。私を殺しても、あなたが罪を負うだけよ」

「……」

「…会えて嬉しかったわ、元気でね」

「…っ、待ってくれ…!」


呼び止めたがもう遅く、彼女は木々の奥に消えていった。行き場をなくした手を下ろし、しばらくの間、俺は彼女のいた場所を見つめていた。

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