世界を超えて 2

「なかなか見つからねえな…」


山に入って一時間、辺りをくまなく探しているのだが、なかなか見つからない。


(それもそうか、何せ幻と言われてるくらいの存在だ、簡単には見つからねぇか)


だが、最近は魔狼の噂が頻繁に飛び交っているのだ、会う確率は高くなっているはず。
目を凝らし、辺りを見回していると、近くからガサリ、と音がした。次いで少し低めの女の声。


「誰?」


ダンテが声のした方を振り返ると、少し離れた位置に女が立っていた。
腰まであるアイスブルーの髪に瑠璃色の目。20代前半であろう美しい女だが、その姿を見てダンテは目を見開く。
首元と腰回りにファーを付けたような不思議な服を着ている女の頭には、他の狼より垂れめの白い耳。背後には同じ毛色の尾が揺れている。ふわふわとしたアームカバーから覗く指は鋭い爪を備えていて、一目で人間ではないとわかった。―幻と言われていた存在、魔狼だ。
こちらを見た女も、自分と同様に目を見開き、小さく口を開いた。


「ダンテ…」


女が口にした自分の名前に、ダンテは驚く。


「何で知って…」


そう口にして、ダンテはあることに気づく。この女、昔どこかで見たような…。
その時、ふと昔のことを思い出した。
幼い頃、母に街へのお使いを頼まれ、山で迷ってしまったこと。茂みの中で泣いていた自分に女性が声をかけてきて、優しい声で自分を落ち着かせてくれたこと。そして、手を繋いで街まで送ってくれたこと。
そんな彼女の姿は、町の人と違っていて―。


「あんた…あの時、俺を助けてくれた人か?」

「…そうよ」


こくり、彼女は頷く。
ダンテの頭は疑問だらけだった。


「あんたみたいな優しい人が、何で町の人や家畜を襲ってるんだ?」

「襲う?私が、町の人や人が飼っている動物達を?」


首を傾げて彼女は返す。


「あんたじゃないのか?」

「魔狼はそんなことをしないわ。自分の住む山を守り、その地に住む動物達を見守る…それが役目よ。町の人や動物達を襲う必要がない」


そう言うと、彼女は深いため息を吐き、呆れたような視線をダンテに向けた。

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