幸せのレシピ 7

「お待たせしました」


数分後、トレーを持ってリアラがダンテの待つソファにやってきた。ソファから起き上がると、ダンテはトレーに乗った物を見て呟く。


「タルト、か?」

「ええ。でも普通のタルトじゃありませんよ。苺のムースで作ったタルトです」


リアラの言う通り、ダンテの目の前に置かれたタルトは普通の物と違っていた。タルトの中にはピンク色をした生地が流し込まれていて、上にはスライスした苺がきれいに並べられていた。まるで、店で売っているかのようだ。


「前にケーキ屋さんの前を通った時に、苺のムースのタルトがあったんです。いつか作りたいなって思ってて、今日、苺を買ったのでいい機会だと思って」


がんばりました、と楽しそうに笑うリアラ。つられてそうか、と笑ったダンテはタルトを指差す。


「さっそく食べていいか?」

「はい、どうぞ」


リアラが頷くと、ダンテはタルトにフォークを刺し、一口分取って口に入れる。味わうように咀嚼すると、リアラを見て嬉しそうに笑う。


「ん、うまい」

「そうですか、よかったです」


ほっと安堵のため息をつき、エプロンを取るとソファの肘掛けに掛け、リアラはダンテの向かいに座る。
タルトに手をつけたリアラを見つめ、ダンテはポツリと呟いた。


「…今日、依頼人のところで飯食ってきたんだけどな」


ダンテの呟きにリアラは手を止め、ダンテを見つめる。


「金持ちらしくだだっ広い部屋でそこのお抱えのコックが作った料理を食べたんだが、食べた感じがしなかった」


ふと、目の前のタルトに視線を落とし、ダンテは続ける。


「堅苦しいところだったし、普段口にしない高級なもんばっかりだったから、おいしいって感じられないのは当然なんだけどな」


だけど、とダンテは呟く。


「うまい訳がねえんだよ。俺のために作られたもんじゃないからな」


そう言うと、ダンテは再びリアラを見つめる。


「どんなにいい食材を使ったって、どんなに腕のいい料理人が作ったって、気持ちが込められてなきゃうまくねえんだよ。…お前の作った料理みたいにな」

「ダンテさん…」

「だから、俺は幸せ者だと思ってな」


こうやって、俺のためを思って作ってくれる奴がいるんだから、とダンテは笑う。
それに、リアラは幸せそうに笑い返す。


「…そう言ってもらえると、作りがいがあります」

「これからも、うまい料理作ってくれな?」

「はい」


二人の間に、温かく、穏やかな空気が流れる。
ふいにあることを思いつき、ダンテはリアラを呼んだ。

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