幸せのレシピ 4
空が夕闇に染まり始めた頃。ダンテは事務所への帰り道を歩いていた。
(全く、しつこい女だった)
ガシガシと頭を書きながら、ダンテは今日の出来事を思い浮かべる。
依頼人は隣街に住む大きなお屋敷の女主人で、夜毎庭に現れる悪魔に困っているから退治してほしいという依頼だった。羽振りもよかったし、手応えのある相手だったため、文句はなかったのだが、その後が厄介だった。
女主人は自分のことを気に入ったのか、依頼が完了したという報告を終えた後、一緒に食事はどうかと誘ってきた。何度も断ったのだが、あまりにしつこく誘ってくるため、渋々了承した。金持ちらしくだだっ広い部屋でお抱えのコックが作った料理を食べたが、元々堅苦しいところが苦手なため、食べた感じがしなかった。
食事を終えた後も長々と話を聞かされ、わざとらしく自分の腕に腕を絡めたり身体を寄せてきたりしたため、うんざりしながら何とか流し(最終的には半ば脅して)、やっとのことで依頼料をもらって帰路に着いたのだ。
(遅くなっちまったな…)
空を見上げ、ダンテはため息をつく。リアラに夕方前には帰れると伝えていたが、予定より大幅に遅れてしまった。
(心配してるだろうな、あいつ)
リアラは理由さえちゃんとわかっていれば、滅多に怒ることはない。その代わり心配性で、以前、連絡をしないで大幅に帰りが遅れてしまった時があり、その時は事務所に入るや否や、走り寄られて涙目で見上げられてしまった。それ以来、遅れる時はちゃんと連絡している。
(帰ったら謝らないとな)
そう考えている内に、事務所に着いていた。ダンテは事務所の扉を開ける。
「ただいま」
声をかけ、室内に入るが反応はない。不思議そうに首を傾げたダンテだが、室内を見回して理由はすぐにわかった。
二人掛けのソファにもたれかかり、すやすやと穏やかな顔で眠っているリアラ。肘掛けにはエプロンが掛けてあり、眠る前まで料理をしていたことがわかる。キッチンを見ると茹でる前のパスタやボウルが見え、まだ夕食が出来ていないことがわかった。
(珍しいな、準備の最中に寝るなんて…)
不思議に思いつつも、ダンテはソファに近寄ると屈み込み、眠るリアラと視線を合わせる。
「リアラ」
「…ん…」
ダンテが呼びかけると小さく声を漏らし、リアラは目を開けた。
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