傍にいる存在 1
この日、リアラは忙しそうに家の中を行き来していた。
「掃除は終わったし、お昼ご飯と晩ご飯の材料は買ってあるし…お昼ご飯の下ごしらえでもしようかな」
普段の落ち着いた雰囲気はどこへやら、そわそわしている娘に、ゼクスは苦笑しながら声をかけた。
「そんなに焦る必要はないだろう、リアラ。普段と同じようにしていればいい」
「うう…わかってるんだけど、こんなこと初めてだから、何だか落ち着かないの、父様」
困ったように手を組んでリアラは答える。
実は今日、遠くのスラム街に住んでいるティナ達がフォルトゥナに遊びに来るのだ。
ダンテは近くで依頼があれば寄ってくれるし、ネロは2ヶ月に一回はキリエに会いにこちらに帰ってくるのだが、ティナは今回が初めてだ。聞いたところ、ティナたっての要望らしい。
一週間前に出発して、今日の昼に着く予定になっている。
「心配することなんてないだろう。来てくれることが嬉しいなら、素直にその気持ちを出しなさい」
「父様…」
ようやく落ち着いたのか、リアラは微笑んで頷く。
「うん。ありがとう」
ゼクスも笑みを返したその時、コンコン、と玄関から扉の叩く音が聞こえた。
「リアラー、来たよー!」
「ティナ!」
声の持ち主に気づき、リアラは早足で玄関に向かう。
扉を開けると、少女がリアラに向かって抱きついてきた。
「久しぶり、リアラ!」
「久しぶり、ティナ。元気にしてた?」
「見ての通りだよ!リアラも元気そうでよかった」
「ふふ、ありがとう」
二人でキャッキャとはしゃいでいると、玄関に立っていた青年がリアラに近づいてきた。
「久しぶりだな、リアラ」
「久しぶり、ネロ。あ、おかえり、の方がいいかな」
だってここがネロの『家』だものね。
リアラがそう言うと、ネロは照れ臭そうに頬を掻いて呟く。
「そこまで言わなくてもいい…」
「あらあら、照れちゃって」
「えー何、ネロ、照れてんのー?」
「うっせえ!」
二人のやり取りを微笑んで見ていたリアラは、ふとあることに気づく。
「そういえば、ダンテさんは?」
大好きな恋人の姿が見当たらず、リアラは首を傾げる。
あー、と気まずそうにティナが答える。
「こっちに来る直前に依頼の電話きちゃってさ、それ終わってから来るから、明日か明後日に着くと思う」
「そう…でも、依頼ならしょうがないよね」
そう言いつつも、見るからにしょんぼりしているリアラをティナは必死に励ます。
「大丈夫だよリアラ!ダンテのことだもん、すぐ来るよ!ダンテもリアラに会いたいって言ってたし!」
「そうね…ありがとう、ティナ」
ティナの優しさに、リアラは小さく笑みを浮かべる。
「長話しちゃったね。さあ、上がって。今からお昼ご飯用意するね」
「やった!リアラのご飯おいしいんだよねー」
「ふふ、ありがとう」
お邪魔しまーす、と言って、ティナは家の中に入る。ネロもそれに続いて中に入った。
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