幼なじみ振り向かせ大作戦! 8

バス停に立って、アリスは街を見つめていた。隣には大きなトランクが置かれている。


(もうすぐでこことお別れか…)


ここにいたのは一年ほどだったが、思い返せば様々な出来事が浮かぶ。そのどれもに、ダンテがいて。
アリスは俯く。


(…仕方、ないよね…)


昨日、ダンテがああ言ったのだ。これ以上いても、彼の迷惑になるだけだ。
涙をこらえ、アリスは顔を上げる。


(それにしても、早く来すぎちゃったな…)


普段より一時間早く起きて支度をして事務所を出たが、初めてこの街に来た時にどうやって来たかすっかり忘れていて、歩きながら何とか思い出し、バス停まで来た。
しかし、始発のバスは2時間後で、仕方なくここで考えごとをしながら時間を潰していたのだ。


(帰ったら、きっともう外には出ないだろうな…)


目的を失った今、外に出る理由もないから。
そんなことを考えていると、遠くから車の走る音がして、アリスが待っていたバスが姿を現した。


(今までのことは、忘れよう。また昔みたいに町で静かに暮らそう)


バスが停まり、音を立てて扉が開く。トランクを抱え、アリスが乗り込もうと一歩踏み出したその時。

ふわっ

「!?」


ふいに身体が浮き、アリスが目を見開いている間に何者かにバスから降ろされ、背後から声がする。


「あ、こいつ乗らないから。行ってくれていいぜ」


驚いた顔をしながらも運転手は頷き、バスの扉が閉まる。慌ててアリスが手を伸ばすが、無情にもバスは行ってしまった。
キッ、とアリスは後ろを振り向く。


「何するの、ダンテ!」

「何って、見た通り」


アリスを引き止めたのは紛れもない、ダンテだった。
肩を竦めるダンテに、アリスは声を荒げる。


「何で止めるのよ、乗ろうとしてたのに!」

「お前こそ、何で帰ろうとしてるんだよ」

「そ、それは…」


言葉に詰まってしまったアリスに、ダンテは静かに尋ねる。


「…昨日、俺があんなこと言ったからか?」

「!」


アリスが勢いよく顔を上げる。ダンテはアリスの頬に手を伸ばし、優しく撫でる。


「トリッシュから全部聞いた。お前が俺に会うために町を飛び出したって。…本当か?」

「……そうだよ…。だけど、ダンテは私のこと、ただの『妹』としか思ってないんでしょ…?」

「アリス…」

「もういいよ、わかったから…。だから、帰…っ!?」


言い切る前に、アリスはダンテに抱きしめられた。頭上でダンテが呟く。


「悪かった…。ちゃんと、俺の気持ちを伝えるべきだった」


抱きしめる力を強め、ダンテは語り出す。


「あの町から離れても、お前のことばっかり思い出して…心にぽっかり穴が空いた感じだった。…だから、一年前、お前が姿を現した時、驚いたけど、嬉しかった」

「…っ」

「お前が『仕事を探しに来た』って言うから、仕事が見つかるまでは事務所に置いといてやろうと思って、置いて…。いつかは手放さなきゃいけないと思いながらも、お前といるのが居心地よくて…結局、今日までズルズルと引きずっちまった」

「…何で、手放さなきゃいけないって思ったの…?」


『見送る』でなく『手放す』。アリスにはその言葉が引っかかった。それに、ダンテがいてほしいと言うなら、喜んでいるのに。
一瞬言うのをためらったが、決心してダンテは口を開く。

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