コラボ小説 | ナノ
 A coquettish storm. 後

「…ここは保健室であって図書室じゃないんだがなァ…」


俺のぼやきを完全に流したバージルは、保健室のベッドで優雅に読書をし続けている。勿論今の時間は授業中の筈だ。


「ったく…」


俺は視線を落として溜め息を吐いた。調理実習もサッカーも面倒だからとサボるのは良いとして、此処に居座られても困るっての。っつーかリアラと授業受けられるなんて羨ましいんだよこの野郎、何サボってんだ。


「…ン?」


と、ポケットの中で携帯電話が振動する。画面を見れば「初代」と表示されていて、こんな時間に珍しいなと思いつつ通話ボタンを押した。


『突然で悪い。緊急事態だ』

「どうした?」


緊迫した様子の声に自然と表情が引き締まる。少し慌てた様子で初代が続けた。


『二代目の発作が起きそうなんだ』

「…何?」


発作?発作…。発作って、アレか。あの、甘いものを求めて徘徊する…


『しかもリアラたちのクラスは調理実習でチョコトリュフ作ってる』

「オイオイ…そりゃあマズいだろ」

『…あぁ、マズいな。俺は生徒の避難を優先する。悪いがアレを用意してくれるか?』

「…アレか…、分かった」


普段の俺なら面倒だと一蹴する頼みだが、リアラが関わっているなら話は別だ。電話を切って立ち上がると、聞き耳を立てているであろうバージルに呼びかける。


「バージル!お前も手伝え」

「何故俺が手伝わねばならんのだ」

「紅を守る為だ」

「………」


紅の名前を出すと、バージルは小さく鼻を鳴らし動き出す。なんだかんだ言いつつ、バージルもあの子が大切なんだろう。


「さて、大仕事だぞ」


そして俺たちは保健室を飛び出したのだった。

***

…もう、ダメかもしれない。

そう思った時、二人の体がふわりと宙に浮く。


「「っ!?」」


驚いて振り返ると、紅は若に抱きかかえられ、リアラは髭に抱きかかえられていた。


「コイツは俺んだ!」

「いくらアンタでも手を出したら許さねえ」


臆すること無く二代目に威嚇する二人。


「二代目〜!」


と、初代の声に顔を向ければ、彼は餌でおびき寄せる様に棒付きキャンディを翳して見せた。


「…アメ…」


小さく呟いた二代目はフラフラと初代の後を追って行く。去っていった嵐にホッと胸を撫で下ろした若と髭に、紅とリアラは半泣き状態で抱きついた。


「若ぁ〜!」

「ダンテさん…っ!」


ギリギリと張り詰めていた緊張が切れた彼女たちを、若と髭はギュッと抱き締める。もう大丈夫だ。そう言って背を撫でてやると紅は腕の力を強め、瞳に涙を溜めて訴えた。


「もう!なんなのあれ〜!」


言葉にならないけどすごかった。そう訴える紅にリアラも頷き同意する。


「気絶、するかと思った…」


もう本当に、凄かった、とかそんな表現しか出来ないけれど。混乱し続ける頭の中でこれだけは確かに言える。


「「もう二度と会いたくない」」


あの「甘えん坊将軍」にだけは、もう二度と会いたくない。紅とリアラの声は見事に重なったのだった。

***

一方、二代目を誘導した初代はと言うと…


「バージル!」


仁王立ちして待ち構えていたバージルは初代と二代目の姿を確認すると食堂の扉を開く。その先にあったのは、高さ二メートル近いケーキのタワーだった。


「………!」


心なしか二代目の表情が綻ぶ。何度か二代目がこの状態になった時に発案されたのが、食堂のメンバー総動員して作られる巨大ケーキだった。兎に角甘くした上で更に大量に生クリームが塗ってあり、普通の人間ならば見ただけで胃が凭れそうな光景である。恐るべき質量のケーキを完食した「甘えん坊将軍」は、やっと、本来の二代目の姿に戻る事が出来たのだった。