▼ A coquettish storm. 序
「〜ふふふーん♪今日の〜、調理実習〜♪あま〜い、あまいっ♪トリュフー!いえー!」
「ふふ、ご機嫌ね?」
陽気な鼻歌交じりに手を洗う紅にキリエが微笑む。今日は調理実習の授業でチョコレートを使いトリュフを作る事になっていた。リアラ、紅、キリエの三人は同じ班になり、ただ今準備の真っ最中。
「だって美味しいもん!キリエはネロにあげるの?」
「…うん」
「照れちゃって、可愛いんだから〜」
そんな会話をしていると、紅の後ろで材料の準備をしていたリアラが苦笑を零した。
「紅、エプロンの紐が解けそう」
「えぇ…やっと結べたと思ったのに」
リアラの言葉にガックリと肩を落とした紅は、背後に手を回して懸命に結び直そうとする。しかし彼女は幼い頃からこういう事が苦手で、なかなか上手くいかない。結局、見兼ねたリアラが丁寧に結び直してやった。
「ありがと、リアラ」
「どういたしまして」
いつもと変わらぬ日常。今日も今日とて穏やかに時間が過ぎて行く…筈だった。しかし、彼女たちの知らない内に、静かにその時は迫っていたーーー。