▼ welcome new day!
教室の窓際に頬杖をついて外を見つめる。視界一杯に桜が舞い、とてもきれいだ。
「……」
桜を見ながら、様々なことを思い出す。
友達ができなくて悩んだ時のこと、バイトを始めた時のこと、紅と仲よくなった時のこと、軽音部初のライブを見た時のこと、そして…あの人と、思いが通じた時のこと。
学生生活なんてあっという間っていうけれど、本当だと思う。気づけばもう3年生になっていて、高校生活もあと一年となった。
少し寂しいとは思うけど、それ以上に残りの一年を楽しもうと思う。
(だいぶ、自分も変われたかな)
そんなことを思って、思わず笑みを浮かべていると、後ろから扉の開く音がした。次いで、聞き慣れた親友の声。
「リアラ!」
後ろを振り返ると同時に、親友―紅が抱きついてきた。
私は苦笑しながら、彼女に声をかける。
「おはよう、紅」
「おはよう!今年も、クラス一緒だね!」
「うん。若とバージルも同じだったわ」
「うん、見た!キリエも一緒だよ!」
「今年も変わらず同じメンバー、ってことね」
「うん!今年もよろしくね、リアラ!」
「こちらこそ」
お互いに笑いあっていると、再び扉の開く音が響いた。
「おーっす」
若が手をあげてこちらにあいさつをしてくる。
「あ、若!」
「おはよう、若」
「おう」
こちらに近づいてくる若に、紅は尋ねる。
「バージルは?」
「職員室に用があるんだと。もう少ししたら来るだろ」
そういう彼の服装を見て、私は呆れながら言う。
「あいかわらずちゃんと制服着ないのね、一回くらいちゃんと着たらどう?」
「ヤだ、めんどくせー」
「よくそれでクレド先生に捕まらないわよね…」
ふぅ、と私がため息をつくと、俺があんなお堅い奴に捕まるわけねーだろ、と若は自慢気に言う。
「お前等、あいかわらず仲いいよな」
「何か悪いのか?」
むっとしながら紅が言う。
若は私に抱きつく紅の手を無理矢理引きはがすと、彼女の身体を自分へ引き寄せた。
「俺も構えよ、紅」
「は!?何言って…!」
自分を見上げ、睨みつける紅に構わず、若は紅の胸元に視線を落とすと言った。
「お前、またリボン崩れてんじゃん」
俺が直してやるよ、と言う若の手があからさまにリボンではないところへ伸びるのに気づいて、私は窓から離れる。
「紅、屈んでて」
私がそう言うと同時にその意味を察して屈んだ紅を確認してから、私は若に踵蹴りをくらわした。
「うおっ!?」
もろに直撃してあまりの痛さに頭を抱えて屈んだ若を見ながら、はっ、と私は鼻で笑う。
「新学期早々から私の親友に手出してんじゃないわよ」
「リアラー」
ぎゅうっと抱きついてくる紅の頭をよしよしと撫でた後、私は紅のリボンを直してやる。
「ありがとう!」
「どういたしまして。紅も、そろそろリボン結べるようにならなきゃだめだよ?」
いつでも教えてあげるから、と私が言うと、うん、ありがとう!と紅は満面の笑みで返してくれた。
(ああ、やっぱり紅といるとほっとする)
そう思っていると、痛みから復活した若が、屈んだまま、私をちらりと見て呟いた。
「…リアラ」
「…何よ」
「お前、今日も青なんだな。いや、水色か?」
「!?」
若の言った意味に気づき、私は思わずスカートを押さえる。
お前青多いよなー、と呑気に言う若に、私はふるふると肩を震わせる。
いつの間にか私から身体を離した紅が、私の顔を覗き込んだ。
「…リアラ」
「…うん」
親友だからこそ通じる、数少ない言葉を交わし、私達は若の前に立った。
「あ?」
「…この、」
「「ど変態がぁぁぁ!!!」」
「ぐふぉっ!」
言葉と共に二人の踵蹴りが見事に入り、若は床につっ伏した。
この後、教室にやって来たバージルが若を見て、「何をやっている、愚弟が…」と呆れたように呟いたのは言うまでもない。
ああ、今日からまた賑やかな毎日になりそうだ。