▼ ‐闇に咲く花‐ 3
「久しぶり、ネーヴェ。元気にしてた?」
「トリッシュ!」
店にやってきたのはトリッシュだった。気づいたネーヴェはトリッシュに駆け寄る。
「本当に久しぶりね…!何ヶ月ぶり?」
「ざっと三ヶ月ぶりかしら。元気そうで何よりだわ」
「トリッシュも元気そうでよかった。よかったら入って、今、お茶を淹れるわ」
「ありがとう」
ネーヴェはトリッシュを奥へ招き入れると、台所で二人分の温かい紅茶を淹れて戻ってくる。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
礼を言ってカップに口をつけたトリッシュを見て、ネーヴェは口を開く。
「状況はどう?」
「相変わらずね。前と同じ状況を維持しているところもあれば、激戦化しているところもあったわ。穏やかに過ごせるところなんて、どこにもない」
「そう…」
悲しそうな顔をするネーヴェに、トリッシュは苦笑する。
「このご時世だもの、どこもかしこも戦争だらけよ。ここは比較的平和な方でしょう?」
「…そうね。ごめんなさいトリッシュ、困らせちゃって」
「いいのよ。あなたのそういうところが私は好きだわ」
にっこりと笑ってそう言うと、トリッシュは再びカップに口をつける。
「またすぐに行ってしまうの?」
「そうね。上に報告してからだけど…一週間したらここを出ると思うわ」
「じゃあ、いる内にまた遊びに来て。今度はお菓子を作っておくから」
「嬉しいわ、ありがとう」
しばらくの間二人で話していると、ふいにトリッシュが真面目な顔になった。
「…ネーヴェ、服の制作を頼みたいんだけど」
「…わかった。どんなの?」
空気が変わったのを感じ取り、ネーヴェも真剣な顔をして尋ねる。少しためらった後、トリッシュは言った。
「『紫の手袋』をお願い」
「!」
ネーヴェは目を見開いた後、す、と目を細めて答える。
「…わかった。いつまでに作ればいい?」
「特に期限はないけれど…近い内でいいわ」
「わかった」
ネーヴェが頷くと、トリッシュは立ち上がる。
「そろそろおいとまするわ。またね、ネーヴェ」
「ええ、またね、トリッシュ」
トリッシュを見送ったネーヴェは扉の閉まる音が響くと同時に俯く。そして、手のひらを握りしめる。
「また、やる気なのね…」
ネーヴェの呟きに、ケルベロスは心配そうにクゥン、と鳴いた。