▼ 愛と平和に満ちている
陽光を浴びながら広々とした芝生に立ったリサは満面の笑みでその手にあるフリスビーを投げる。投げ慣れているそれは美しい軌道で宙を飛び、そしてケルベロスが見事に咥えてみせた。正に絵に描いたような飼い主と飼い犬の姿だ。それを柔らかく愛おしそうな瞳で見つめているオニキスは、少し離れた場所に腰を下ろし荷物番をしている。リアラは特にする事もなく、相棒と共にその隣に座っていた。オニキスの横顔をチラリと窺えば、その碧い瞳は一心にリサを見つめている。
「…リサの事、大好きなのね」
思わず漏れ出た言葉に振り返ったオニキスは、愛しいひとの面影のある顔ながら、見た事のない表情を浮かべ頷いた。その通りだと言わんばかりに蕩けた笑みで、心底嬉しそうに頷くものだからこちらが照れてしまいそうだ。
「リアラ!ボールもあるからそっちのケルちゃんと遊んだら?」
駆け寄って来たリサはオニキスが抱えている鞄の中から犬の玩具であるボールを取り出し笑いかける。やっぱり連れ歩くものが犬の姿をした魔獣であるという認識はないらしい。否、認識があっても扱いは変わらないかもしれないが。
「ええと…う、うん」
無垢な笑みに頷き返したリアラは、アイコンタクトで相棒に謝りつつ立ち上がった。悪気は無いのだし、断ったら悲しい顔をされてしまいそうで。
「ここの公園広いから、ずーっと遠くに飛ばしても大丈夫だからね!」
リアラが頷いたことで更に上機嫌になったリサは、オニキスにもその笑みを向けた。
「荷物見てくれてありがとう。もう少しの間よろしくね、オニキス」
名前を呼ばれた彼も優しい微笑みで応える。互いを想う心が滲み出ているような、見ているこちらも幸せになるような、そんな二人の姿に自然とリアラも笑みを浮かべていた。
「行こ!」
「うん!…じゃあ、行ってくるね」
手を振るオニキスに微笑んだリアラは、芝生の上を駆け出すリサの背を心を弾ませて追った。