コラボ小説 | ナノ
 心優しき悪魔

いつもこのお散歩コースなの、と並んで歩くリサが楽しそうに笑う。隣のケルベロスは確りとリサに合わせて歩き、リアラの隣を歩く彼もまた主にぴったりとくっついていた。先日二人で買ったお揃いの、肩紐のない膝下丈のワンピースが風に揺られてふわりと揺れる。胸元と裾に可愛らしいレースが施され、背中から編み込まれ腰で結ばれたシフォン素材のリボンが女の子らしい。白地に黒のレースがリアラ、黒地に白のレースがリサだった。リサはその上にパステルピンクの薄いパーカーを羽織って、父譲りの髪は動きやすいように一つに纏められている。一方リアラはミントグリーンのVネックカーディガンを羽織っていた。お散歩日和な陽光の中、美しく可愛らしい少女二人と大型犬より更に一回り大きな犬が並んで歩く様は何とも目立つ。それが災いしてか、普段なら滅多に起きない事が起きた。


「キミら、かわいーね」


薄ら笑いを浮かべながら声を掛けてきたのは見知らぬ男。リサとリアラは一瞬だけ動きを止めて、けれどすぐに興味が無いとばかりに歩みを進めていった。しかしナンパ男はめげずに話し掛けてくる。


「無視しなくてもいーじゃん?」


後ろから追いかけてきた男の手が伸びる。リサの腕を掴もうとしたその手は、けれど触れる直前で突然現れた影に阻まれた。


「なっ…!」


男が驚くのも無理は無いだろう。気配も無く現れたそれは、実際にリサの影から出現したものだからだ。咄嗟にリサを守ろうと動きかけたリアラだったが、リサのホッとしたような表情に緊張を解く。


「オニキス…」

「………」


男の手をリサから遠ざけながら、にっこりと笑う彼にリアラもホッと息を零した。気配も雰囲気もまるで違うけれど見知った顔が安心させるようにこちらにも笑いかけている。


「っ、離せよ!」


乱暴に掴まれた手を振り解き男はオニキスを睨んだ。しかし先程とは別人の様な冷たい眼差しに射抜かれ、二匹の大きな獣に咬み殺されんばかりに唸られれば逃げるしか道は残されていない。


「………チッ!」


最後の抵抗とばかりに舌打ちをして一睨みして去っていく男に、もうオニキスは目を向けていない。リサとリアラの手を優しく取ると、そのまま何事もなかった様に歩き出した。


「また絡まれても嫌だし、このまま行こっか」


リサの声が嬉しそうに少し弾んでいる。やはり彼女にとって、オニキスは安心出来るものなのだろうと再認識して、リアラも抵抗する事なく歩みを進めたのだった。