コラボ小説 | ナノ
 優しい光

夜も更け、人々が寝静まった時間帯。バスルームから出てきたリアラはリビングでソファに座る後ろ姿を見つけた。


「緋紗さん?」

「あら、リアラ。ちょうどよかった、こっちに来て少しお話しませんか?」


後ろ姿の正体は緋紗だった。彼女もこちらに気づき、優しく微笑みかけてくれる。隣を勧められ、お邪魔します、と軽く頭を下げ、リアラはソファに座る。


「眠れないんですか?」

「まあ、そんなところでしょうか。…綺麗な月ですね」

「…ええ」


緋紗に倣い、リアラも窓の向こうに浮かぶ月を見上げる。真円を描く月は夜闇を明るく照らし、溢れる光が室内を明るく照らしている。


「…こうやって穏やかな気持ちで月を見るのは久しぶりです」

「そうですか。…月を見るのは、辛いですか?」

「昔は。…最近は、そうでもないです」


そう言い、リアラは緋紗へと視線を移す。


「ダンテさんの事務所に暮らし始めてから、それにここで暮らし始めてから…少しずつだけど、怖くなくなってきましたから」

「…そうですか」


目を細めて頷くと、緋紗は再び月に視線を移す。


「複雑なものですね。私達魔女にとっては加護になるこの光も、貴女にとっては過ぎる力となる。…身に余る力を抑えることは並大抵のことではありません」

「よく、わかっています。父様でも完全にコントロールすることは難しいと言っていましたし、半分人間の私には一層難しいことは重々理解しています。…けれど、いつかはこの力をちゃんと使いこなせるようになりたい。そう思っているんです」

「貴女ならできますよ、真面目でがんばり屋さんですから。けれど、あまり無理をしないでくださいね」

「…はい」


目を細めて頷くと、ふふっ、とリアラは笑みを零す。


「緋紗さん、お母さんみたい」

「あら、そうですか?」

「ええ、かけてくれる言葉が。リコとリサのお母さんってこともありますけど、心配してくれるところが本当のお母さんみたいで」

「ふふ、そうですか。いつでも頼ってくれていいんですよ?」

「ありがとうございます。けど、今はちょっと甘えさせてもらってもいいですか?」

「どうぞ」


優しく笑いかけてくれる緋紗に礼を言い、リアラは彼女の肩に身体を預ける。彼女の手に自分の手を重ねると、緋紗は空いた方の手でゆっくりと自分の手を撫でてくれて。
優しい温かさに包まれ、リアラはゆっくりと瞼を閉じた。

* * *

「ん…」


瞼の裏に射し込む光を感じ、リアラはゆっくりと目を開ける。窓に目をやると朝の光が射し込んでいて、あの後寝てしまったのか、とぼんやり考える。


「ん…?」


ふと、リアラは首を傾げる。空いているはずの右手が温かい。不思議に思ってゆっくりと視線を右隣へ移すと…


「………」


いつの間に隣にいたのだろう、そこには大好きな人がソファに身を預けて眠っていた。熟睡しているらしく、呼吸に合わせてゆっくりと身体が上下している。
状況が飲み込めず、ぱちぱちと目を瞬かせたリアラは、ダンテの左手が自分の手の上に置かれていることに気づく。


(もしかして、昨日からずっと…?)


身じろぎしたリアラは自分にかけられた毛布に気づき、確信する。やっぱり、昨日からずっと傍にいてくれたんだ。
左隣で眠る緋紗を起こさないようにゆっくりと毛布から抜け出し、リアラは眠るダンテの顔を覗き込む。


(睫毛長い…)


閉じられた瞼を縁取る銀色の睫毛は思ったより長くて、思わずじっと見つめてしまう。と、その時、彼の口から小さく声が零れた。


「ん…」


うっすらと目を開き、何度か目を瞬かせたダンテは、自分を覗き込むリアラに気づいて微笑む。


「…おはよう、リアラ」

「…っ!お、おはようございます…」


間近で見る笑顔に心臓が跳ねる。真っ赤になって目を逸らすリアラにくすりと笑みを漏らし、ダンテは事の経緯を話し始めた。


「昨日リアラが部屋に来ないからどうしたのかと思ってな、下に降りたらソファで緋紗に寄りかかって寝てた、ってわけだ」

「そうなんですか…」

「もう一人の俺も緋紗が来ないからどうしたのかと思ってたみたいでな、廊下でたまたま一緒になって様子を見に来たんだよ」


そう言ってダンテがリアラの後ろを指差す。つられてリアラがそちらを見やると、緋紗の隣で彼女の夫がソファに寄りかかって寝ていた。


「気持ちよさそうに寝てたから起こすのも忍びなくてな、部屋から毛布を持ってきて隣に座って寝顔見ながら話してたんだ。で、そのまま俺等も寝ちまった」

「そうなんですか…でも、寝顔を見られてたなんて、恥ずかしい…」

「かわいかったぞ?」

「もう、からかわないでください」

「ははっ、悪い悪い」


照れながら睨むリアラに詫びつつ、ダンテは彼女に手を伸ばす。柔らかい頬に手を添えてゆっくりと撫でると、許してくれたのか彼女は微笑んで頬を擦り寄せてきた。
ダンテが手を離すと立ち上がり、こちらを見てリアラは言う。


「ダンテさん、私、朝ご飯を作ってきます。まだ眠かったら寝ててもいいですよ」

「いや…せっかく起きたんだ、手伝う」


リアラと同じように立ち上がると、ダンテは彼女の額に口づけを落とす。くすぐったそうに笑うと、リアラはダンテを見上げる。


「じゃあ、まずは顔を洗わなきゃですね」

「そうだな」


並んで洗面所に向かいながら、二人は何を作るか楽しそうに話すのだった。