コラボ小説 | ナノ
 一人じゃない

「…というわけなんです」


話を終えたリアラに、この家の家主であるダンテは顎に手を当ててなるほどな、と頷く。


「つまり、魔狼の血をひくお前は満月の影響を強く受ける、と。で、上手く力をコントロールできないから俺達を傷つけるかもしれない、そう言いたいんだな?」

「はい」


リアラは静かに頷く。
今朝、朝食を終えた後、リアラが自分達に話があると言ってきた。平日のためリコとリサは学校に行かねばならず、二人には帰ってきてから話すことにして、ひとまずは自分と緋紗の二人で話を聞くことになった。最初、ソファに座ったリアラは不安そうに手を握りしめ、話すのを躊躇っていた。隣りに座るあちらのダンテが彼女の手を包み、大丈夫だと目線で促したことでようやく安心したのか、彼女はポツリポツリと話し始めた。
満月の日は悪魔の力が増幅されるが、自分達魔狼はその影響が一際強い。だが、自分は半分人間のため、その力を上手くコントロールできない。精神的に不安定になると暴走してしまう。最近は落ち着いているが、いつまた暴走するかわからない、と彼女は話した。力を覚醒させた時のことも交えて話してくれたが、その時の彼女の悲痛な面持ちに複雑な気持ちにならざるを得なかった。


「だが、暴走する原因は解決したんだろ?理解してくれる奴も傍にいるし、心配ないんじゃないのか?」

「そう、なんですけど…。どうしても不安、なんです。気持ちも上手くコントロールできませんし…」

「…力の暴走で誰かを傷つけてしまうかもしれないと、それが不安なんですね?」

「…はい…」


静かに問うた緋紗に、リアラはこくりと頷く。


「私は、そのせいで父様を傷つけました。ダンテさんだって、下手したら傷つけていたかもしれない。…だから、嫌なんです。誰かが傷つくのは」

「リアラ…」

「私の魔力をレイザードがもらってある程度は抑えてくれているし、ダンテさんが傍にいてくれるから安定してる。…けれど、本当は自分でコントロールしなくちゃいけないもので、自分が未熟だからそれができていない。わかってるのに、できないなんて…」


言葉を詰まらせ、唇を強く噛むリアラに、あちらのダンテは心配そうに彼女を見つめる。
その時、ふう、と緋紗が小さくため息をついた。


「その若さでそれだけわかっているだけでも充分だと思うのですが…」

「だよな。お前くらいの歳なら、俺なら何も考えずに暴れてるな」

「貴方とリアラじゃ根本的に違うでしょう。貴方はもう少し考えて行動するべきです」


呆れ顔で夫を窘めると、緋紗はリアラへ視線を移す。


「リアラ、人は誰だって完璧ではないし、最初から何でもできるわけではありません。失敗して、そこから学んで成長していくんです。私だって、この人だって、貴女の恋人だって、最初から上手く力をコントロールできたわけではないんです」

「で、も…」

「貴女は、自分に厳しいんですね。そして、自律心が強い。だから人に頼らずに自分で解決しようとするし、その上、人に迷惑をかけることを嫌がるから一人で抱えて溜め込んでしまう。その歳でそこまでしっかりしているのは感心しますが、そのままではいつか壊れてしまいますよ」

「……」


俯いてしまったリアラに、緋紗は優しく語りかける。


「リアラ、人に頼ることは悪いことではありません。みんな、困った時は人に頼るものなんです。それに、貴女には貴女のことを理解して、助けてくれる人が傍にいるでしょう?今だって手を繋いで、心配してくれている」

「……」


緋紗の言葉に、リアラは隣りに座る恋人へ顔を向けた。目を細め、ダンテは優しい笑みを浮かべる。


「それだけ貴女が自分の力を理解して、人を傷つけないようにと気遣えるのなら大丈夫ですよ。それに、何かあったとしても私とこの人がいますから」

「そういうことだ。ま、そっちの俺もいることだし、心配ないだろ。いつも通りにしてりゃいい。なんなら、俺とそっちの俺で一緒に悪魔でも狩りに行くか?気兼ねせずに暴れられるぜ?」

「貴方ったら…もう少しいい方法はないんですか?」


冗談混じりに言ってのける夫に、緋紗は苦笑しながら返す。そんな二人のやり取りを見つめていたリアラは、俯いて呟く。


「…ありがとう、ございます…」


小さな声で告げられた言葉に、二人は顔を見合わせると、リアラに向かって微笑む。ダンテは彼女の頭に手を置くと、ゆっくりと優しく撫でる。


「…よかったな」

「…はい」


目元に浮かぶ涙を手の甲で拭いながら、リアラは思う。自分は、優しい人達に出会えたんだ、と。
さて、と緋紗はソファから立ち上がる。


「喉が渇いたでしょう、お茶にしましょうか。リアラ、手伝ってくれますか?」

「はい」


頷き、たち上がったリアラの手をダンテが優しく握りしめる。すぐに離れたその手に優しい暖かさを感じながら、リアラは緋紗についてキッチンへと向かった。