▼ 気にしなくても、いいんだよ
「楽しかったー!ついたくさん買っちゃったね」
「うん、こんなに買ったの初めてかも」
「リアラあんまり服買ってなかったし、ちょうどいいくらいだと思うよ?」
またこうやってお出かけしようね!と笑うリサにリアラも微笑んで頷く。
ある程度店を回った二人はちょうどお茶の時間ということもあって、女の子の好きそうなかわいらしいカフェでケーキをお供に紅茶を飲みながらおしゃべりを楽しんでいた。
「初めて入ったけど、このお店いいね。ケーキも紅茶もおいしいし」
「うん、お店の内装もすてきだし。また来たいな」
「あ、リアラ気に入った?」
「うん、控えめなかわいさなのがいいなって」
「そっか、よかった」
にこっと笑ったリサは、紅茶を一口口にするとゆっくりとティーカップを置く。
「…ねえ、リアラ」
「何?」
首を傾げるリアラに、リサはティーカップを両手で包んだまま言う。
「リアラが服を買わないのは、いつ元の世界に帰るかわからないから、なるべく荷物を増やさないため?」
「!」
その言葉にリアラは目を見開く。リサはまっすぐにリアラを見つめる。
「リアラやダンテの話を聞いててね、思ったの。リアラ、人に迷惑かけたくないんだなって。自分のせいで誰かが困ったり辛い目に合うのをすごく嫌がってる。だから、自分一人で全部背負っちゃってる」
それにね、とリサは続ける。
「リアラ、けっこう先のことまで考えるでしょ?それって生活する上でも、デビルハンターとしても大切なことだけど、そのせいで要らない心配してる。ママは少し時間がかかるって言った、けれどそれが一ヶ月や二ヶ月で終わるかもしれない、だから物は増やさなくていいって思ってる。違う?」
「……」
「…リアラ」
リサが呼びかけると、リアラは俯き、両手でティーカップをぎゅっと握りしめる。
「…リサの言う通り。緋紗さんは私とダンテさんの住む世界を見つけるのに少し時間がかかるって言った、それは一年や二年かかるかもしれない、けれど、二ヶ月や三ヶ月で終わるかもしれない。もし、そうなったとしたら…たくさん荷物があると、困るから」
「……」
「それに、居候の身で物を増やすなんてどうかと思うし…住まわせてもらってるだけで、充分だし…」
「リアラ」
自分を呼ぶ声にリアラが顔を上げると、リサが自分の頬を両手で包み込んだ。
「リアラは気にしすぎ。それに、遠慮しすぎ。元はこっちのせいで起こったことなんだから、リアラが気にすることじゃないんだよ」
「でも…」
「パパもママも、リコも私も、誰も、迷惑だなんて思ってないよ。リアラとダンテがここにいる間、楽しんで過ごしてほしいってきっと思ってる。先のことを考えるのも大切だよ。けれど、今この時間を大切にするのも大事なことじゃない?」
「リサ…」
彼女の優しい言葉に、リアラは一度目を閉じると、柔らかな笑みを浮かべた。
「…そうだよね、今、この時間を大切にしないとね。…ありがとう、リサ」
「どういたしまして」
にこっと笑みを浮かべたリサに、リアラはあのね、と口を開く。
「この後、男性用の服も見に行きたいんだけど、いいかな?ダンテさんの服を買いたいの」
「うん、いいよ。私もオニキスの服探そうかなあ」
「ありがとう。オニキスの服を探すなら、その時だけはオニキスに出てきてもらえば?サイズを合わせないといけないし、実際着てもらった方が決めやすいだろうし」
「うーん、まあ…リアラがそう言うなら…」
リサが頷くと、彼女の影がゆらりと揺れる。それに気づいたリアラはふふっ、と笑みを零す。
「オニキス、嬉しいみたいだね。影が揺れてた」
「もう、オニキスったら…。まあいっか、そろそろ行こう?」
「うん」
笑顔で頷き、リアラは立ち上がった。