▼ Will you marry me? 8
「は、恥ずかしかった…」
「滅多にできないいい体験ができただろ?」
「あれは仕事だよ!?下手したら失敗してたんだからね!」
「悪かったって」
「悪かったって思ってないでしょ!?」
事務所の居間にあるソファに座っていた雪菜は髭の言葉に声を荒げる。
あの後、事務所に帰ってきた雪菜は、たまごねこ達にこうなった理由(わけ)を問い詰めた。雪菜の剣幕に押されながらも説明するたまごねこ達に、雪菜は嬉しいような呆れたような複雑な気分になった。自分のためにやってくれるのは嬉しいが、仕事場でやるのはいかがなものなのか。
はぁ…とため息をついた雪菜に、髭はすまなさそうに言った。
「…悪かったよ。そんなに迷惑だとは思わなかった」
「…迷惑ってわけじゃないよ。ただ、仕事でああいうことされると動揺しちゃうんだよ。私、二つのことを同時にできるほど器用じゃないから」
困ったように雪菜は言う。そして、視線をさ迷わせながら、消え入りそうな声で言った。
「…それに、けっこう嬉しかったし…」
隣りから聞こえた言葉に、髭は目を見開いて雪菜を見る。雪菜は顔を真っ赤にして俯いている。
「あれも、一応仕事の内容に当てはまるし…。私がちゃんとやればよかっただけだし…」
後悔の混じった声音に、髭はくすりと笑うと、雪菜の頭を撫でる。
「雪菜はちゃんとやってたさ。心配しなくていい」
「本当に…?」
「ああ。プロじゃないのにあれだけやれてれば上出来だ」
こちらを見上げる雪菜に髭は優しく微笑みかける。
雪菜は再び俯き、うん、と小さく頷く。
髭は優しく名を呼ぶ。
「雪菜」
呼ばれて雪菜が顔を上げると、髭の顔が近づく。雪菜が反応する間もなく、額に柔らかな感触が落ち、チュッ、と軽い音を立てて離れる。
何をされたか理解した途端、雪菜は額に手を当てる。
「〜っっ!!!」
「がんばったごほうびだ」
雪菜の反応を楽しそうに見やると、髭は雪菜の手を引いて、雪菜の頭を自分の膝の上に乗せる。所謂膝枕だ。
雪菜は悲鳴に近い声を上げる。
「お、おじさんっ!!」
「明日から休みなんだろ?少しくらい甘えろよ」
そう言い、自分の頭を撫でる髭に、雪菜はゆっくりと身体の力を抜いていく。
ゆるゆると瞼を閉じながら、雪菜は呟く。
「…おじさん」
「ん?」
「…明日から三日間休みだから、どこかで買い物つき合って」
「…仰せのままに、お姫様」
髭が笑うと、雪菜も嬉しそうに笑う。そのまま、温かな微睡みに雪菜は意識を委ねた。
その後、雪菜が依頼先から送られてきた三組のカップルが写った写真と髭と二人で写った写真を額縁に入れて部屋に大切に飾っていたのは言うまでもない。
***
ボカロパロ、二話目です!
ギリギリ七夕に間に合った…(^ ^;)
内容は『ジューンブライド』だったので、本当は6月中に書き上げるつもりだったんですが、無理でした…。しかも、途中怒ってばっかりになった。ねこちゃん、ごめん…(^ ^;)
額にキスとか、頭撫でられるとかは完全私の希望です(笑)
今度は何書こうかな…。