▼ 3日目 13
ドッ!
「!」
音を立てて、悪魔の腕が何かに貫かれる。よく見ると、それは地から突き出た氷柱だった。驚きに目を見開くダンテの耳に、低く静かな声が届く。
「…ダンテさんを食べられなかったから、ダンテさんより弱い私を狙ったってわけね。あの時、油断してたことは確かだから、そこについては何も言わないわ。ただね…」
一呼吸置き、リアラの声がさらに低くなる。
「…他の世界の人間まで巻き込むな。私を狙うならまだしも、ダンテやディーヴァちゃんまで喰らおうっていうのなら、黙ってはいない」
口調は静かながらも、リアラから発せられる魔力は彼女の怒りに合わせて強まっていた。冷気を纏う魔力が、周りの温度を急激に下げていく。
「リアラお姉、ちゃん…?」
いつもの穏やかな雰囲気とは違う雰囲気を纏うリアラに、ディーヴァは驚く。落ち着かせるようにディーヴァを抱きしめながら、ダンテは思う。
(アイツ、かなり怒ってるな…)
魔力の鋭さからわかる、彼女は本気で怒っている。だが、それはさっきの言葉からもわかるように、自分達にまで危害を加えようとしているから怒っているわけで。裏を返せば、それは人間(ひと)を守ろうとしているからに他ならない。人は苦手だと言いつつ、彼女は人間を守ろうとしているのだ。
(…味方で、よかったな)
心の底から、ダンテはそう思った。
一方、腕を突き刺された悪魔はリアラの方を振り返る。
『乱暴ねぇ…。女性に怪我させるなんて』
「節操のないあんたに言われたくないわ。それに、あんたは悪魔でしょう?」
『生意気な子。いいわ、相手をしてあげる』
「舐めないでほしいわね」
ピリッ、と空気が張り詰める。リアラは右腕を掲げると、ある名を呟く。
「行くよ、レイザード」
リアラの声に反応し、両腕のブレスレットが淡く光を放つ。光が収まると同時に金属製のグローブとなったレイザードを軽く振り、鉤爪を固定したリアラは勢いをつけて飛び上がった。
悪魔は自分の足元に広がる影から無数の触手をリアラに向かって伸ばす。それを素早い動きで避け、リアラは悪魔に向かって速度をつけて落下する。
『っ!』
危険を察した悪魔が影に隠れ、離れたところに移動する。数秒後に先程まで悪魔がいた場所が衝撃波によって抉られ、大きくへこんでいた。
影から再び姿を現し、悪魔は呟く。
『危ないわね…もう少しで潰れちゃうところだったわ』
「やっぱり影で移動するのね…厄介ね」
立ち上がるリアラの隙を狙い、すかさず悪魔はリアラに向けて地面から無数の棘を発生させる。静かに手を上げると、リアラは冷気を纏う魔力でその棘を凍らせた。