▼ Will you marry me? 3
一週間後。
軽い足取りで、雪菜が事務所に帰ってきた。
「ただいまー!」
「あ、つなちゃん、おかえりー」
「お、雪菜、おかえり」
事務所にいたたまごねこと初代が出迎えの言葉を述べる。
「つなちゃん、ご機嫌だね。もしかして、仕事終わった?」
「いや、まだあるんだけどさ」
苦笑しながら初代の隣りに座り、雪菜は続ける。
「やっとね、リアラのウェディングドレスができたんだ!」
「本当!?おめでとう、つなちゃん!」
「よかったじゃねぇか」
「えへへー」
初代に頭を撫でられ、照れたように雪菜は笑う。
「どんな感じになったの?」
「それは撮影時のお楽しみー」
にこにこと楽しそうな笑みを浮かべながら、雪菜は告げる。
「それで仕事終わりなんじゃないのか?」
「それがね、新婦と新郎を一緒に撮りたいらしくて、リアラの相手を誰にするか決めかねてたみたいで、『誰かいい人いませんか?』って聞かれたのよ。だったら同じ『sing doll』のダンテ達がいいかなと思って話したら、即採用されてね。みんなの写真見せたら若が選ばれた」
「若がか?」
「うん、『年上の奥さんと年下の旦那さんもいいかも』だって」
「確かにあの二人だと、そうなるね…」
「うん。まあ、依頼先が決めたことだから。若にはちゃんと言っておく。それと、タキシード作らないといけないから、明日、採寸に連れて行かないと」
「タキシードも雪菜が作るのか?」
「私はウェディングドレスしか勉強してないから、タキシードは無理。デザインだけして、作るのはあっちがやるって」
「デザインはするんだな」
「うん、ウェディングドレスもデザインしたからお願いしたいって。あと一週間はかかるね」
うーん、と雪菜は背伸びをする。
ふいにたまごねこが身体を乗り出し、雪菜に尋ねた。
「ね、つなちゃん、ドレスのデザインって、他にも描いてる?よかったら見せて!」
「うーん、それだとリアラのやつもバレちゃうんだけど…。いいよ」
普段、雪菜は一つのデザインを描いて、それを直しつつ描いていくので、あまりたくさんデザインを描いておくことはしないのだが、今回は『何種類かデザインを描いてほしい』と言われていたので、いくつかデザインを描き溜めていた。
雪菜が鞄からスケッチブックを取りだそうとしたその時、玄関の扉が開いた。
「ただいまー!」
「ただいま。あ、雪菜、帰ってきてたのね。おかえりなさい」
「あ、リアラ、若、おかえりー」
先程話題に上がっていた二人が帰ってきた。手には買い物袋を持っている。
「買い物?」
「うん、今日の夕ご飯の買い出しに。若に手伝ってもらってたの」
「今日はカレーだぜ!」
「お、いいねー。今日の当番は?」
「俺とリアラだ」
「お、初代とリアラか。リアラは女の子だからよく入るね」
やばいやばい、私も料理できるようにならなきゃ、と雪菜は苦笑する。
「カレー…初代とリアラちゃんの作るカレー…うふふ…」
「ねこちゃん、好きな二人が作るから興奮するのはわかるけど、ちょっと落ち着こうか」
怪しい笑みを浮かべるたまごねこを宥める雪菜。
雪菜は初代へ顔を向けると、謝るように片手を立てた。
「初代、ちょうどいいから二人にさっきの話しときたいんだけど、ちょっとの間、夕飯の準備任せてもいい?」
「ああ」
「ありがと、お願い」
雪菜はリアラと若へと視線を移し、不思議そうに首を傾げる二人に話しかけた。
「リアラ、若、ちょっと話があるんだけど、いい?」
「うん。仕事の話?」
「うん。例の撮影の仕事。あっちの依頼で若も加わることになったから、若にも話しとかないと」
「俺も?」
「そ。あっちで話そうか」
そう言い、雪菜は立ち上がった。