▼ Will you marry me? 2
「つなちゃん、まだかかりそうなの?」
「うん、型はできてるんだけど、素材で悩んでるの」
苦笑しながら答えると、雪菜は髭の頭からタオルを離し、最後に軽く手櫛で梳いてやる。
「はい、終わり」
「ありがとな」
「いいえ」
座っていた席に戻ると、雪菜はコップに口をつける。
「ウェディングドレス作るのって大変なんだねぇ」
「まあね、普段作るものじゃないからね」
「というか、作れる方がすごいだろ。ましてや一ヶ月でその作り方覚えるなんて、かなり無茶だぞ」
「ある程度衣装作りやってるからましだけどね、素材があんまり使わないものが多いから…」
困ったように笑う雪菜。
一ヶ月前、会社にとあるホテルから仕事が舞い込んだ。内容は、『6月に向けてホテルの敷地内にある教会での結婚式をPRするためのポスターを作りたいので、新婦としてリアラにウェディングドレスを着てもらい、写真を撮りたい』というものだった。それに加え、普段リアラ達の衣装を作っている雪菜の腕を見込んでか、リアラの着るウェディングドレスのデザイン・製作も依頼された。
とはいえ、ウェディングドレスについての知識のない雪菜は勉強のため、一ヶ月前からウェディングドレスを作る専門店で勉強しながら製作しているのだ。
「肌触りがいい方がいいからね、そういうところも考えつつ選んでるから、なかなか決まらなくて…」
ふぁ…と雪菜はあくびを噛み殺す。
「大変なのはわかるけど、あまり無理しないでね、つなちゃん」
「ん、ありがとう、ねこちゃん」
「なんなら添い寝してやるか?」
「喜んで甘えたいところだけど、まだしばらくは続くから、遠慮しとくよ」
髭の誘いをやんわりと断り、雪菜はお茶を飲み干すと立ち上がる。
「お風呂入って、早めに寝るよ。ねこちゃん、お茶ごちそうさま」
「いいえー、おやすみー、つなちゃん」
「おやすみ、雪菜」
「うん、おやすみー、ねこちゃん、おじさん」
ぱたぱたと手を振ると、雪菜は事務所を出ていく。
パタン、と扉の閉まる音が響くと、たまごねこはふぅ、と息を吐いた。
「つなちゃん、大丈夫かなぁ…」
「だいぶ疲れてたな。早めに終われるといいんだが…」
「つなちゃんこだわり性だから、それは難しいと思う」
困ったように、たまごねこは再びため息をつく。
髭は頬杖をつくと、ぽつりと呟いた。
「…なら、あいつががんばってる分、俺達もがんばるか」
「そうだね、それくらいはしないとね」
お互いに笑みを溢すと、それぞれ自分のコップに口をつけた。