▼ The season that rotates 2
ようやく訪れた昼休み、紅は大学の敷地内にある中庭へ向かっていた。
中庭を覗くと、一足先に来ていたらしいリアラがベンチに腰掛けていた。紅は大きく手を振る。
「リアラ!」
こちらに気づいたリアラがにっこりと笑って手を振り返す。紅はリアラの隣りに腰を下ろす。
「ごめん、待った?」
「ううん、さっき来たばかりだから大丈夫」
ふるふると首を振ると、さ、食べよ?とリアラは促す。
お弁当作りも含め、食事の支度は交互に行っている。今日はリアラの担当で、彼女から手渡されたお弁当箱の蓋を開けた紅は目を輝かせる。
「うわぁ、おいしそー!いただきまーす!」
「ふふ、どうぞ召し上がれ」
手を合わせてお決まりの挨拶を述べた後、さっそく唐揚げに手をつけた紅はおいしさに顔を綻ばせる。
「んー、おいしー!」
「本当?よかった」
「あたしも早くリアラみたいに料理上手くなりたいなー」
「焦らなくても大丈夫だよ。紅、料理上手くなってきてるし」
「本当!?嬉しい!」
「うん。せっかくだから、今度若に会う時に、おいしいお弁当食べさせてあげたらいいんじゃないかな?」
突然出てきた名前に、紅は目を見開いて頬を染める。
「な、何でそこでダンテが出てくるの!?」
「だって、紅がお弁当作った時に若すごい喜んでたんでしょ?なかなか会えないし、たまにはいいじゃない」
「そ、それはそうだけど…」
もごもごと口ごもり、紅は俯く。
「ダンテがミュージシャンになってから、あっち忙しくてなかなか会えないし…同じ街には住んでるけど、さ」
そう、若も所属事務所のあるこの街に暮らしていて、距離としてはそれ程離れていない。けれど、ミュージシャンと大学生。時間なんてなかなか会わなくて、まだ大学に入ってから一度しか会っていない。
呟いてから、はっと我に返った紅は慌てる。
「ご、ごめん!リアラもおっさんになかなか会えないのに、こんなこと言って…」
「ううん。私は住んでる場所が違うだけだし、週末にはダンテさんと会えるから」
気にすることなく、にっこりと笑って返すリアラ。
リアラが大学に入るためにこの街へ来たことで、リアラと髭はちょっとした遠距離恋愛になってしまったのだが、教師と生徒という関係がなくなったことでむしろ会いやすくなったと二人は笑って話していた。それを聞いた紅は二人とも大人だなあ、としみじみと感じた。
「連絡は取ってるの?」
「あんまり取れてないんだ…話したいけど、なかなか時間合わないし」
「そっか…。手紙書いてみたら?それかメールするとか。電話で話すのが難しいなら、後から返事もらえるようにしてみたらどうかな?そうしたら、若も時間がある時に返事返せるだろうし」
「そう、だよね…。ありがとリアラ、そうしてみるね」
「うん。あ、そろそろ時間だね、講義行こっか」
「あ、本当だ!次、一緒の講義だよね、一緒に行こ!」
「うん」
パパッとお弁当箱を仕舞うと、二人は次の講義のために学内に戻った。