▼ Dear person
「はー、楽しかった!」
「私も。すごく緊張したけど、楽しかった」
サプライズ終了後、紅とリアラはステージ裏の控え室にいた。引き続き打ち上げを楽しんでいるだろう他のメンバーを思い浮かべながら、紅が笑みを浮かべる。
「最後のあれ、大成功だったね!あの二人の驚いた顔といったら!」
「二人のあんなに驚いた顔、初めて見た。でも、たまにはこういうのもいいかもね」
紅につられ、リアラも笑みを浮かべる。
歌を歌い終わった後、紅とリアラはそれぞれの恋人である若と髭に髪につけていた薔薇の髪飾りを手渡した。元は紅が以前のダブルデートの時のように花を渡したいと言ったのが始まりだったが、髪飾りを手渡したときの二人の顔は滅多に見ない表情をしていて、紅とリアラは思わず笑ってしまった。
「紅、一緒に歌ってくれてありがとう。私、このこと絶対に忘れない。大切にするわ」
「うん、あたしも、絶対に忘れない」
額をくっつけて二人が笑みを浮かべた時、トントン、と扉をノックする音が響いた。
「はい」
「紅、俺だけど。入っていいか?」
紅が返事をすると、扉の向こうから返ってきたのは恋人である若の声。
「うん、いいよ」
首を傾げつつも紅が頷くと、それを合図に扉が開かれる。姿を見せた若の後ろには髭もいて、リアラは目を見開く。
「ダンテさん!」
「よう」
軽く手を上げると、髭はリアラに近寄る。若も同じく、紅に近づいた。
「二人とも、どうしたの?わざわざこんなところまで来るなんて…」
「まあ、ちょっと、な」
そう呟いて髭と顔を見合わせると、若は口を開く。
「これ、ありがとな。あの時は驚いて礼言えなかったからさ」
トントン、と若が指し示すジャケットの胸ポケットには紅が手渡した赤い薔薇の髪飾り。ああ、と納得した紅が言う。
「それね、リアラが作ったんだよ。衣装がバイト服だし、ちょっとでもいつもと違うようにしよう、って」
「サプライズ前にキリエが手作りの衣装をくれたから、こっちを着たけどね。花を渡すっていうのは紅が考えたんだよ」
「だって…前に花を渡した時、若がすごい喜んでくれたからさ…」
そう言って恥ずかしそうに顔を赤らめる紅と、優しく微笑むリアラ。そんな二人の様子に若と髭も笑みを深める。
「あの後、ルイスがすごい落ち込んでたんたぜ?リアラ先輩にも彼氏いるのかー、って」
若の言葉に、以前、ルイスに告白にも似たことを言われたのを今更ながらに思い出して、リアラは苦笑する。
「今更だけど、みんなの前でやったもんね。そう考えるとちょっと恥ずかしいな」
「むしろよかったんじゃないか?これで言い寄られることもなくなるし、俺としても心配しなくて済むしな」
後ろから手を回し、自分の頭に顎を乗せてくる髭に、リアラは頬をほんのり染めながらも笑みを浮かべる。
「ま、おっさんの気持ちはよくわかるよ。俺だって紅がルイスに言い寄られてた時は心配でしょうがなかったからな」
「えー何、若そんなこと思ってたの?」
「うっせーな、まだ付き合う前だったんだからしょうがないだろ」
からかう紅に、拗ねたように返す若。室内は暖かく穏やかな空気に包まれていて、心地よい時間が流れる。
「さて、と。他の奴らも待ってるしな、そろそろ行くか」
「そうだね。いこ、リアラ」
「うん」
頷き、椅子から立ち上がった二人に若と髭が声をかける。
「紅」
「リアラ」
「ん?」
「何ですか?」
二人が振り返った次の瞬間、頬に温かなものが触れる。チュッ、と音を立てて離れたことで恋人からキスをされたとわかった二人は顔を真っ赤に染める。
「なっ…!」
「ダ、ダンテさん…!」
「サプライズ成功、だな」
「真っ赤になっちまって、かわいーな」
してやったり、というかのように笑う髭と若。固まって動けない恋人の手を取ると、二人は歩き出す。
「ほら、行くぞ」
「早くあいつらに姿見せてやらねーとな」
そして、彼女は自分のものだとみんなに見せつけてやる。
密かにそんなことを思いながら、髭と若は控え室の扉を開けた。