▼ twinrose
ポケットに入れていた携帯が鳴ってメールが来たことを知らせる。携帯を開いてメールの内容を確認した初代はこっそりとネロに耳打ちする。
「二人から準備ができたって連絡が来た。後はよろしく頼むな」
「ああ」
ネロが頷いたのを確認して、初代はその場を離れる。カウンターの前を通る際、自然な動作でマスターに耳打ちし、周りに気づかれないようにステージの裏へ向かう。
数分後、ネロの携帯に初代からのメールが来た。内容を確認したネロはマスターに視線で合図する。頷くと、マスターは背後の棚に隠れたスイッチで店内の電気を消した。
「わっ!何だ何だ!?」
「何かおっぱじめんのか?」
「……」
いきなり店内が暗くなったことで、その場にいた皆が驚き、ざわつく。
ふいにある一点に明かりがつき、皆の目がそちらに向く。いつの間にかマイクを持っていたマスターが口を開いた。
「みんな、今日はお疲れ様。楽しんでいるところ突然こんなことをして申し訳ない。実は、今日はみんなに一つサプライズがあるんだ。ぜひ楽しんでいってほしい」
そう言うと、マスターはステージに手を向ける。それと同時にステージ上の明かりがつき、二人の人物の姿がはっきりと浮かび上がった。
ステージの上に立つ二人の人物に、若と髭は目を見開く。
「紅!?」
「リアラ!?」
皆の視線が集まる先にいたのは、自分達の恋人。ライブの時に着ていたバイト服とは違い、彼女達はドレスのようなものを着ていた。紅は右斜めに裾が広がった膝上丈に赤いリボンテープ、リアラは左斜めに裾が広がった膝下丈に青いリボンテープのついたドレスを着ており、それぞれ黒いニーハイとストッキングを合わせている。腕にはお揃いの色違いのシュシュをつけ、色違いの薔薇の髪飾りが華を添えていた。
「へへっ…みんな驚いてるね」
「それはそうだよ、初代達以外には言ってないんだから」
お互いに顔を見合わせてくすくすと笑うと、二人は口を開く。
「実は、みんなに内緒でサプライズを考えてたんだ。ライブの打ち上げで二人で歌おうって」
「初代から案をもらって、それからずっと二人で練習してたの。みんなに気づかれないように、ね」
「マスターには事情を話して、こっそり準備してて…本当は制服のまま歌うつもりだったんだけど、キリエがこんな素敵な衣装をプレゼントしてくれました!キリエ、ありがとね!」
「協力してくれたみんな、ありがとう。がんばって歌うので、楽しんでいってくれると嬉しいです」
「助っ人で、初代にキーボードを担当してもらうよ!初代、よろしくー!」
「じゃあ、いきます!『silver tail』で『a shooting star!』」
リアラの掛け声がかかるとともに、二人の後ろにいた初代がキーボードの鍵盤を叩き始める。楽器の音が辺りを満たし始め、二人で足でリズムをとると、最初にリアラが口を開いた。
『夜空を眺める私の上で一筋の光を描く shooting star
願いを叶えてくれるというけれど 私はそんなのに頼らない』
リアラが一節歌うと入れ替わりで紅が口を開く。
『願うだけじゃ叶わないわ それを痛いほど知っている
臆病で弱い自分 あなたの思いに答えられなくて』
『一歩踏み出せない自分が悔しい 思いを伝えられない自分が悲しい』
『辛く悲しい顔をするあなた もう辛い顔は見たくないの 悲しい顔はさせたくないの』
『散々悩んできたけれど私の気持ちは決まってる ならもう悩む必要なんてないでしょう?』
リアラの透き通った力強い歌声と紅の明るく弾むような歌声が交互に響き渡る。二人が顔を見合わせ笑みを浮かべると同時に、二人の声が交わる。
『『一歩踏み出し 自分を変える 』』
高校に入ってからの様々な思い出が蘇る。辛かったこと、悲しかったこと、楽しかったこと、嬉しかったこと、全て。
今の気持ちを、全てこの歌に込めて。ここにいるみんなに、歌声として伝えたい。
『願いは自分の力で叶えなきゃ そうじゃなきゃ意味がないでしょう?』
『私自身が流れ星になるの 夜空を流れて飛んでいって』
『そしていつかあなたの元へたどり着くわ shooting star』
同じ気持ちを持つ二人の歌声が、鮮やかな色を纏って店内に響き渡った。