コラボ小説 | ナノ
 with feeling of gratitude

透き通るような、けれど力強いリアラの歌声に、弾む紅の声が溶け合う。二人はアイコンタクトを取りながらサビを歌い終えると、ソファーに座り歌声を聴いていた初代に「どう?」と尋ねた。


「今のは良いカンジだったな。紅も音は外してなかったし、リアラの声も最後まで綺麗に出せてた。欲を言えば、二人の声のバランスをもうちょっと調整した方が良いんじゃないか?silver tailの二人とお前たちは声の質が違う。だからお前たちはお前たちなりの合わせ方をすればいい」


さすが軽音部顧問というべきか、褒めつつも的確に弱点を指摘してくる。リアラと紅は神妙に頷いて、お互いの意見を交わすと歌い始めた。そして再び初代にアドバイスを受ける…最近はこれの繰り返しだ。若たちが『Crazy Sound』で練習してる間、リアラと紅は学校でサプライズの歌の練習をしていた。もちろん内緒の練習のためなるべく二人だけでコッソリしていたのだが、聞き手の意見も知りたいと、事情を知る初代に時折聴いてもらう事にしたのだ。


「初代に聴いてもらうようになってから、どんどん上手くなってる気がするんだよね」


笑みを浮かべた紅が言うように、確かに二人の歌声は格段に上達していた。それは初代のアドバイスのおかげでもあり、リアラと紅の阿吽の呼吸のおかげでもあるが、一番はやはり、二人の努力によるものだろう。毎日のように練習を重ね、言われた事を受け入れながらも自分たちなりの答えを模索する。元々歌うのは好きなのだ。上達すればよりいっそう、その楽しさは増していく。


「それに、歌うのがどんどん楽しくなるよね」


リアラの言葉に紅が頷けば、初代も嬉しそうに微笑んだ。


「色々言うけどな、やっぱり楽しんで歌うのが一番だと思うぞ?楽しい気持ちは聞き手にも伝わるからな」


初代の言うことは最もで、リアラも紅もその通りだと笑う。再び歌声の響き始めた教室は、日が沈むまで声が止むことは無かった。

***

「キリエ?」


消灯された学校。ライブの練習を終えたネロは楽器を片付けた後に帰ろうとして、見慣れた後ろ姿に声をかけた。


「あ、ネロ…」


振り返った彼女はいつものように柔らかな笑みを浮かべる。


「どうしたんだ?こんな時間まで」


暗い校舎には他に人影はなく、ネロは訝しげに尋ねた。規律を守る彼女がこんな時間まで学校に残って何をしていたというのか。少しだけ視線を彷徨わせたキリエは、周りに誰も居ないのを確認してから小声で打ち明けた。


「………実はね?」

***

「サプライズのサプライズ、か」


頭上には星の煌めく夜空が広がっている。キリエを寮に送るため、彼女の隣をゆっくりとした足取りで歩きながらネロは呟いた。


「そうなの。二人と一緒にステージに立つことは出来ないけれど、私なりに何かしたいと思って…」


そう言って視線を落とした彼女は、鞄とは別に腕に下げている袋を優しく撫でる。その袋の中には、サプライズで歌うというリアラと紅の為にキリエが用意したステージ衣装が入っている。まだ製作途中のそれはキリエの手作りで、どうにか本番に間に合わせようと集中して作っているうちに、気付けばこんな時間になってしまっていた。


「二人が頑張るんだもの。私も出来る限りの事がしたいの」


顔を上げたキリエの微笑みは強い信念を感じさせ、とても美しい。一瞬見惚れてしまったネロだったが、でも、と続けた。


「日が暮れてから一人で帰る、ってのは感心しないな」

「…そうね。気を付けるわ」


真摯なネロの言葉は、心からキリエを心配してのものだった。だからキリエも苦笑を浮かべて頷く。


「日が暮れるまでには、ちゃんと帰るから」


心配しないで?と続けた彼女の右手を、ネロの左手が優しく包み込んだ。


「そうじゃないだろ」

「ネロ…」


驚いて見上げた横顔は、夜だからか見えにくい。


「…遅くなった時は、今日みたいに俺が寮まで送るから」


キュッと握られた手に力が込められる。熱い手のひらの温度が移ったかのように、頬が熱を持った。


「………うん」


頷いて微笑んだキリエはちらりと窺い見たネロの頬が僅かに赤くなっているのを認めると、笑みを深くして手を握り返す。


「ありがとう、ネロ」


言葉は返ってこなかったものの、繋いだ手が離される気配はない。手の熱さと胸の高鳴りを感じながら、二人は無言で帰路を歩いた。