▼ Suffering the consequences.
「それで?この程度で許されるなんて思ってねーよな?」
着替えを終わらせたリアラを引き連れ、紅は髭と若へ言い放つ。彼女たちの前では図体の大きな男が二人揃って正座させられていた。
「………」
張り付いた笑みに言い返す事も出来ず、黙り込む二人の首には大型犬用の首輪がつけられている。
「『ワン』って鳴いてみなよ。ほら、」
完全に怒りのスイッチが入った紅は、二人を蔑みの目で見下ろした。こんなに怒り狂った彼女を見るのはいつ振りだろうか。
「紅…」
そこまでしなくても、と言いかけたリアラは蘇る先程の記憶に口を噤む。元はと言えば彼らの暴走が招いたものだ。自分だって怒っているし、紅はリアラを泣かせた事への非を責めているのだから、ここは紅に任せよう。そう思ってリアラは傍観に徹していた。
「とりあえず正座してな。犬ども」
フンッ、と鼻を鳴らしてリアラの方を向いた紅は、それきり男二人の存在を忘れてしまったかのように他愛もない話を始めてしまう。一方のリアラは相槌を打ちつつもチラチラと視線を向けていた。暫く様子を見ていたが黙って正座させられる彼らを見ていると流石に可哀想になってくる。そんなリアラの気持ちを感じ取ったのか、髭がゆっくりと口を開いた。
「リアラ、本当に悪かった…。もう泣かせたりしないから…近付いてもいいか?」
真摯な物言いにぐらりと気持ちが揺れる。紅を窺い見ると、まだ目が据わっているものの咎めることは無かった。
「…約束ですよ」
「ああ、約束だ」
頷いた髭は立ち上がってリアラの傍へ寄り手を差し出す。
「触れてもいいか?」
頬に触れる寸前で動きを止めた彼は、リアラが頷くと嬉しそうにギュッと彼女を抱きしめた。赤みの残る瞼へキスを落として、耳元で囁く。
「泣かせた詫びになんでもする」
どうか許してくれ、と懇願すると、服の裾を掴まれて潤んだ瞳が見上げてくる。
「じゃあ…お昼ご飯ごちそうして下さい」
可愛らしいお願いを断る理由もなく、
「仰せのままに、お姫様」
ふ、と細められた瞳は愛おしそうに恋人を見つめた。二人をジト目で見ていた紅は、振り返って不安そうな顔をするリアラに気付くと苦笑を零す。
「…リアラが許すなら、あたしは何も言わないよ」
彼女が髭に甘いのは重々承知だ。リアラが怒っていないのに、自分が怒るのも筋違いだろう。
「じゃあ、俺ももう許してもらえんだよな?」
と、恐る恐る言ったのは若で。
「…若がずっとそのままで居たいんなら止めないけど」
拗ねたようにそっぽを向いた紅に駆け寄った若は、きちんと許してもらうために後ろから抱きついて何度も謝った。
「ごめん。俺も…悪かった」
「………ん」
素直に許すのは気恥ずかしくて、紅は小さく頷く。やっと許してもらえた若は嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
「さて、お許しも出た事だし昼飯食いに行くか」
気を取り直して髭が言えば、リアラは嬉しそうに微笑む。
「おっさんのオゴリだしな!」
「お腹いっぱい食べてやる!」
若と紅も気持ちを切り替えたようで、四人は再び笑顔でデートを再開したのだった。