▼ cute!!but…
「次、どこ行こっか?」
「うーん…今だとお昼混んでるし…」
紅に聞かれ、リアラは困ったように唸る。
時間的にはちょうどお昼ご飯の時間なのだが、今はどこの店も混んでいるだろう。休みだからなおさらだ。
どうしようかと二人で悩んでいると、後を着いてきていた髭が意見を出した。
「じゃあ、一つ寄りたいところがあるんだが、いいか?」
「寄りたいところ?いいですけど…」
紅はどう?とリアラが尋ねると、紅も頷く。
「いいよ。行きたいところも決まんないし」
「じゃあ、決まりだな」
「早く行こうぜ!」
さっさと歩き始める髭に、やけに急かす若。
何だか、二人共ニヤニヤしているような…。
同じことを思ったのか、紅が耳元で呟く。
「…あの二人、やけににやついてない?」
「…うん。何か、嫌な予感がする…」
髭や若がリアラや紅のことをよく知っているように、リアラや紅も髭や若のことをよく知っている。あれは、何かを企んでいる時の顔だ。
変なことにならないように内心祈りながら、ため息を吐いてリアラと紅は二人の後を追った。
***
数十分後―。
「ここだ」
「え…」
「ここ、って…」
髭が指差した店に、リアラと紅は目を見開く。
見た目は喫茶店のようだが、大きな窓にはメイド服やチャイナ服をきた女の子の写真がたくさん並べて貼ってある。入口の前にある看板には、『コスプレ喫茶』の文字。
二人はぎこちなく後ろを振り返る。
「コスプレ喫茶、って…」
「…まじでここ入んの?」
「もちろん!」
「いいって言ったのはお前らだからな?今さら行かないってのはなしだぜ?」
髭と若は頷くと、それぞれの恋人の肩を押す。
「あ、あの…!」
「ち、ちょっと…!」
驚きで大した抵抗もできず、まんまと二人の策にはまってしまったリアラと紅はあれよあれよという間に店に入れられてしまった。
***
「どうしよう…」
「逃げられなさそうだよね、これ…」
ソファに座り、お互いに困り果てた顔をしながらリアラと紅は相談する。
個室の一つに入ってすぐ、髭と若はテーブルの上に置いてあった衣装のパンフレットを手に取り、衣装選びを始めてしまった。時々二人で相談までしている。それを止める術など自分達にはなく、どうするべきか困り果てていた。
「着るしかないのかな…」
「き、きっと大丈夫だよ!変なことはされないって!」
「そう、かな…」
不安そうなリアラを、紅は必死に励ます。
髭だって、リアラが嫌がることはしないだろう。若は別だが。
「リアラ、紅」
「は、はいっ!」
いつの間にか目の前に髭と若が来ていた。いきなり話しかけられたためか、びくりと肩を震わせ、リアラは返事をする。
髭が苦笑しながら言った。
「そんなに驚くことないだろうに」
「ご、ごめんなさい…」
「まあいいさ。衣装決まったから、二人共着てきてくれるか?」
更衣室で番号言えば案内してくれるから、と続ける髭にリアラはとまどいながらも頷く。
「はい…」
「なるべく早くな。楽しみにしてるぜ!」
「全く、人の気も知らないで…」
ため息をつきつつ、紅はリアラを連れて更衣室へ向かった。
***
三十分後―。
「何なんだよ!これ!」
髭と若が話しながら待っていると、怒鳴り声と共に扉が開き、紅が姿を現した。後ろにはリアラもいる。
二人の姿を見て、髭と若は口角を上げる。
「二人共、似合ってるじゃねえか」
「ああ、最高だな」
二人が見る先にいる紅とリアラは、メイド服を着ていた。
紅はピンクのメイド服で、丸いエプロンやスカートの裾に白いフリルがあしらわれていた。スカートは太股の半分を隠すくらいの長さしかない。下手をしたら下着が見えてしまいそうだ。足には白いニーソを、頭にはフリフリのヘッドドレスを付けている。
リアラは黒いメイド服を着ていた。四角いエプロンやスカートの裾には紅同様白いフリルがあしらわれているが、部分的に少なめなのとスカートが膝を隠すくらいの長さのため、全体的に落ち着いた感じだ。足には白いニーソを、頭には左右に黒いリボンの付いたヘッドドレスを付けている。
「ふざけんな!何でこんなヒラヒラしたの着なきゃなんないの!?」
「ここはコスプレ喫茶だぜ?そういうのもあるだろ」
「それとも、もっと際どいやつ着たかったのか?俺としては嬉しいけどな」
「う゛…」
際どいやつ、と言われて紅は言葉に詰まる。
この格好でさえ恥ずかしいのに、さらに際どい格好などさせられてはたまったものじゃない。
「逃げようとか思うなよ?着替えられなくなるからな」
そう言い、髭が指に引っかけていた物を見せられ、紅は目を見開く。
「それ、更衣室の…!」
「お前らが着替え終わる頃を見計らって、店員に持ってくるように頼んだ。こっちで持ってたい、ってな」
二つの鍵をクルクルを回すと、髭はニヤリと笑った。
「さて、何を聞いてもらおうかな」
「まずはこっちに来てもらおうか」
そう言われ、リアラと紅はおずおずと自分の恋人に近寄る。髭は自分の膝を叩き、次の『お願い』を告げる。
「じゃあ、ここに座ってくれ。乗っかる感じでな」
髭の言葉にリアラと紅は戸惑ったように顔を見合わせるが、覚悟を決めたのか、それぞれの恋人の膝に自分の膝を乗せた。そんな体勢でバランスを取れるはずもなく、自然と手は恋人の肩を掴む形になってしまう。
髭と若は自分の恋人の腰に手を添え、滅多にない恋人の体勢に満足そうに笑みを浮かべる。
「いい眺めだな」
「ああ、本当だぜ」
リアラはプルプルと震えながらぎゅっと目を瞑り、紅はこれまでにないほど顔を真っ赤にして目を伏せている。あまりにかわいらしい反応に、二人の喉がゴクリと鳴る。
襲ってしまいたい衝動を押さえ、二人は視線を交わす。
「さて…次は何をしてもらおうか」
「じゃあ、次俺な。紅、ここにキスしてくれよ」
待ってましたと言わんばかりに若が『お願い』し、自分の唇をトントンと叩く。紅は困惑したように視線をさ迷わせる。
「じゃあ、俺もしてもらおうかな。リアラ、ここにキスしてもらえるか?」
そう言い、髭は自分の額を指し示す。紅同様困惑したように視線をさ迷わせたリアラだったが、意外と早く決断したようで、両手を髭の肩に置くとゆっくりと顔を近づけ、彼の額にキスをした。
「…いい子だ」
満足そうに笑うと、髭はリアラの頭を撫でてごほうびにとキスをしてやる。
「じゃあ、次はこっちだ」
今度は自分の唇を叩き、髭は告げる。さすがにこっちはすぐ決断というわけにいかず、リアラは髭の顔を見ては視線を逸らしを繰り返す。
「さっきと同じようにやればいい。ほら」
まるで初めてやることを一から教えるように髭は言う。それに促されたのか、リアラはおずおずと顔を近づけ、髭の唇に自分の唇を重ねた。
恥ずかしさのためにリアラがすぐに離れようとすると、
「…っん!?」
「そんなすぐ離れようとするなよ。もう少し味わわせてくれ…」
リアラの頭を引き寄せ、髭は彼女に何度もキスをする。角度を変え、軽く食むように繰り返されるキスに、リアラは必死に髭の肩を掴む。
一方、そんな二人のやりとりを見ていた若と紅は。
「おっさんやるな」
「リアラ、すごい勇気…」
若は口笛を吹き、紅は驚いたようにポツリと溢す。
若は紅の腰を引き寄せると、楽しそうに笑って告げる。
「さて、リアラもがんばってることだし、紅もやらないとな?」
「う゛…」
思わず逃げ腰になる紅だが、雰囲気的に逃げられる状態ではないし、リアラも勇気を出してやっているわけだし。
勇気を振り絞り、紅は若に顔を近づけた。
「…ん」
ゆっくりと自分の唇を若の唇に重ね、恥ずかしさにリアラ同様すぐに離れようとしたが、
「んんっ!?」
「逃げんなよ」
髭同様紅の頭を引き寄せ、キスをする若。角度を変え、何度も繰り返されるキスに息苦しさを感じ、紅は若のシャツをぎゅっと握りしめる。
髭はというと、キスに気を取られているリアラの太股に手を伸ばし、ゆっくりと上へずらし始めた。
「…っっ!!」
びくりと身体を震わせ、気づいたリアラがその手を止めようと手を伸ばすが、何度もされたキスで力が入らず、必死の制止も虚しく、いとも容易くスカートはめくり上げられてしまった。
スカートの中に隠れていた下着を見た髭は、しばしの沈黙の後にポツリと呟く。
「……珍しいな、白か?」
「〜っ!!」
目の前の彼女が履いていたのは白い下着だった。縁は水色と白のフリルが重なり、両脇には細い青いリボンが付いている。
恋人になってから何度か自分のアパートに泊まりに来たため、風呂場で鉢合わせになったり、いたずらでスカートの中を覗いたことはあったのだが、その時見たのは青系の下着だった。
「何だ、気分転換か?…にしても、よく似合ってるじゃないか」
髭の言葉に、リアラはこれまでにないほど目を見開いて、涙目になっている。
「お、こっちはピンクだ」
若の言葉に髭が隣を見やると、自分と同じく紅のスカートをめくって中を覗いていた。紅は両手で口を押さえ、顔を真っ赤にしている。
紅の下着はピンクの生地に縁に淡い黄色のフリルがついた下着だった。ワンポイントに細い白いリボンが付いている。
若と髭は顔を見合わせ、ニヤリと笑う。
「…ってことは…」
「上もお揃いか?」
「「っっ!!」」
そう言うと同時に、二人の手が上へと移動し始める。腰のラインを撫で、胸の上をなぞり、襟元へと辿り着く。
二人がそれぞれの恋人の服の襟に指を引っかけた、その時。
「…っふ、ふぇぇー」
しゃくり上げたかと思うと、とうとうリアラが泣き出してしまった。
下を向いてボロボロと涙を溢し始めたリアラに、髭は慌てて手を離す。
「っ、お、おい、リアラ…!」
「…おい、おっさん」
困り果てる髭の耳に、低くドスの聞いた声が響く。
髭が隣を見やると、目を据わらせた紅が殺気の籠った目でこちらを睨んでいた。
若の膝から下りると髭の前に立ち、紅は拳を作る。
「このセクハラ親父がっ!!!リアラ泣かせてんじゃねえよ!」
「ぐはっ!!」
リアラに当たらないように気遣いながら、紅は髭の顔目掛けて拳を繰り出す。拳は見事に髭の顔面に当たり、あまりの衝撃に髭は身体をのけ反らせる。
髭の手から鍵を取り返すと、紅は優しくリアラの手を引く。
「リアラ、こっちおいで」
「…っ、ひっく…」
促されるままに紅の元に来ると、リアラは俯いたまま、紅の服の袖を掴む。
リアラの頭を一撫でしてから、紅は目を見開く若を睨み付けた。
「覚悟はできてるだろうな…?」
「ち、ちょっと待った、紅…っ!」
そう言うも虚しく、若の腹部に下から突き上げるように拳がめり込む。
あまりの衝撃に腹を押さえてうずくまった若を見下ろし、紅はふんっ、と鼻を鳴らす。
「二人でずっとそうしてろ」
行こ、リアラ、と言い、紅はリアラを連れて部屋を後にしたのだった。