▼ enjoy playing game!
ショッピングを終えた四人が次に通りかかったのはゲームセンターだった。
「リアラ!あれやろうよ!」
紅が見つけたのは、手元と足元に並ぶボタンを音楽に合わせて叩く、いわゆる『音ゲー』と呼ばれるもの。『silver tail』の曲も入っているため、紅のお気に入りのゲームだった。若と一緒によくゲームセンターに来る紅と違い、あまりこういったものをしないリアラはおそるおそるといった様子で台の上に立つ。二人並んでコインを入れて、リアラのために簡単に説明を流した紅は、
「ま、習うより慣れろだし!早速やってみよー!」
なんて言って、さっさと進めてしまう。気付けば聞き慣れた序奏が始まっていた。ぎこちなく動き始めたリアラだったが、物事の順応性に優れている彼女はすぐにコツを掴んだらしい。
「すごいじゃんリアラ!」
「…そ、そうかな…?」
すぐに上達したリアラに気を良くした紅は更に難易度を上げた。
「イチバン難しいのいってみよー!」
「え、ええっ!?」
止める間もなく始まったメロディーに忙しなく動く二人の手足。上へ、下へ、まるでリズムに合わせて踊っているようだ。ボタンを押す事に集中していたリアラも、楽しそうな紅の声に自然と笑みを浮かべていた。
「っはー!楽しかった!」
激しい運動に肩で息をしながら振り返った紅に、リアラが笑みを返す。
「すっげーなリアラ。結構難しいのに」
「二人とも身軽だな」
背後から若が声を掛け、髭も感心したように頷いた。彼女たちに触発されたのか、若がニヤリと笑って近くにあった別のゲームを指す。
「おっさん、俺らはアレで勝負しようぜ?」
『デビルハンター』と書かれたそのゲームは、その名の通り突如現れる悪魔を銃で撃ち倒していくというもので、乗り気になった髭が銃を手に取りクルクルと弄びながら尋ねる。
「何を賭ける?」
「…そうだな…。今日の四人の昼メシ代を負けた方のオゴリで、ってのは?」
「いいねェ。若、金が足りなくなったら貸してやるぜ?」
「ハッ!言ってろ!」
男という生き物はどうしてこうも賭け事が好きなのか。しかし苦笑いのリアラとは対照的に紅は二人を囃し立てる。
「おっさんなんかに負けんなよー!」
「おう!」
「そう言われると、余計に勝ちたくなるんだよなァ」
「…もう、大人気ないんだから」
彼女が居る事で尚更はりきってしまうダンテ二人は、開始直後から見事な射撃を見せた。現れる悪魔を瞬時に撃ちながらもボーナスポイントとなる頭部を的確に撃ち抜く。
「チッ…勝負つかなかったな」
余裕の笑みすら浮かべて最終ステージまでやり遂げた二人は、最高得点で同点となった。面白くない、とぼやく若に肩を竦める髭。一方で紅とリアラは呆気にとられていた。
「いや、え、ていうかオカシイでしょ!」
「二人ともすごいね…」
難なく最高得点を出すなんて流石に予想外だ。惚れ直したか?と髭に微笑まれて思わず、
「惚れ直したというか…ビックリしました」
咄嗟に素直に答えてしまった。
「なんか悔しい!あたしもやる!」
「サポートしてやろうか?」
闘争心に火がついてしまったらしい紅は鼻息荒く画面の前に立ち、若が楽しそうに横に立つ。これは暫く離れられないな、とリアラがぼんやり二人を眺めていると優しく腕を引かれた。
「俺たちは少しブラつくか」
長くなりそうだからな。チラリと視線を送れば、既に紅と若はゲームに夢中になっていた。
「…そうですね」
二人で手を繋いでゲームセンターの中を歩く。あまり彼とこういった場所に来ないからか、初めて見るような機械もいくつかあった。
「あ、可愛い…」
リアラが見つけたのはクレーンゲームの中に並ぶ狼のマスコット。手のひらサイズのそれが、ちょこん、と座る姿はとても愛らしい。リアラの視線に気付いた髭は彼女の手を引くと何も言わずコインを投入した。そして一分と経たないうちに、
「ほら」
リアラの手のひらにそのマスコットが載せられる。本当に、器用というかなんというか。
「…ありがとうございます」
「これくらい、お安い御用だ」
ぽんぽん、と頭を撫でられる。マスコットを大事そうに鞄にしまい、再び手を繋いだ二人が若たちの元に帰ると悔し涙を浮かべる紅の姿があった。
「紅?どうしたの?」
駆け寄って何かあったのかと問えば、
「あー…、ま、まあ、人には向き不向きがあるから、な?」
珍しく若の気遣う声が。
「ぐやじい〜〜〜!」
(…不向きだったのね…)
運動神経抜群ではあるが道具を使うとなると話は別で、どちらかといえば不器用な彼女の事だ。なかなか上手くいかなかったのだろう。
「とりあえず、そろそろ次のお店に行こう?」
気を取り直し誘うと、紅は唇を尖らせてリアラの手を取った。
「悔しいからリアラと行く!」
若と髭の実力が腹立たしく、二人を置いてさっさと歩き出してしまう。やれやれと溜め息を吐いた若と髭は、ゆったりとした足取りでその後に続くのだった。