コラボ小説 | ナノ
 Here goes!

扉の軋む音に振り返る。彼は目が合うと優しく微笑んでくれた。黒いワイシャツにこげ茶の革のジャケット、濃紺のジーパン、革の靴という装いで登場した恋人は


「待たせて悪かったな」


そう言って苦笑を零す。気にしないでください、と返すリアラの背後では、紅が目を見開いて硬直していた。


「…よぉ」


髭の後ろに続いてやって来たのは若で、片手を挙げてそんな挨拶をしてきたからだ。彼女の脳内で混乱は続き、ぽかん、としていると若は喉を鳴らして笑った。


「おま…驚きすぎだろ」


ゴツゴツとブーツの音を響かせ近付いてくる若を呆然と見ていた。迷彩柄のカーゴパンツ、代名詞とも言うべき赤いシャツに茶色のフード付きジャケットを合わせていて、なんだか新鮮だ。


「え、何で若が…知り合いって…ええぇ…!?」


やっと反応を返した紅に思わず吹き出してしまう。リアラは振り返って、紅にネタばらしをした。


「紅、今日はダブルデートだからね?」


…ああ、そういう事か。リアラがこうして色々してくれた理由が漸く分かった。ニッコリと笑った親友の笑顔を見て、紅は大きく息を吐いて頷いたのだった。

***

「ありがとうございます、ダンテさん。突然だったのに、こうして応えてくれて」


こうして今日を迎えられたのも彼の協力あってこそ、だ。リアラが礼を言って頭を下げると顎をそっと持ち上げられ上向かされた。


「これくらい、いくらでも言ってくれれば良い。可愛いリアラのお願いなら叶えてやりたいしな。…それに…」


一旦言葉を止めて、彼女の姿を頭から足の爪先まで眺めた。大人っぽく纏められたコーディネートに見惚れてしまう。


「いつも可愛いが、こんなリアラを見られるなら何でもしてやるさ」


ウインクを飛ばされて頬が熱くなった。学校で会うのとは違い、妙にドキドキしてしまう。気恥ずかしくなって目を逸らすと、不意に影が落ちてきた。


「…っ?」


チュッ、と音がして離れる。驚いて固まっていると、キスで自分の唇に移ってしまったリアラのグロスを舐め取り、ニヤリと不敵に笑う恋人の顔が目の前にあって。


「イチゴ味の唇か?今日はたくさんキスしなきゃな…?」

「…っ、な…!」


こんな朝から、こんな場所で、紅にも若にもマスターにも見られているのに堂々とキスするなんて!耳まで真っ赤になったリアラは言葉にならない諸々を拳に込めて髭の胸を叩く。痛みなど微塵も感じない様子の彼は、その手を掴みリアラの耳に唇を寄せた。


「仕方ないだろう。お前もイチゴも俺の大好物なんだ」


色っぽい低音で囁かれて、より一層赤くなったリアラは瞳を潤ませる。


「あーあ…またやってる…」


若と並んで座る紅は少し距離を置いてイチャイチャし始めた二人に呆れた声を上げた。すると右肩にずしりと重みを感じる。どうやら隣に座る若が頭を預けてきたらしい。


「何?重いんだけど」


顔を見なくて済むのにホッとしつつも、素っ気ない様でいて心臓は煩いくらいに跳ね回っていた。ドキドキしているのが伝わってしまうんじゃないかと緊張していると、呟きに似た声が耳に届く。


「なあ…最近、俺の事避けてるけどさ、嫌いになった訳じゃないよな?」

「………」


横目に若の様子を窺うものの、見えるのは白銀の色ばかりで表情は分からない。ここ最近の自分の反応を思い返すとそう思われてしまっても仕方が無いと思うが、若を好きだという気持ちだけは今まで一度も揺らいだ事はない。これだけは絶対だ。


「…当たり前でしょ。ずっと…す、好きだったもん…」


今も好きだし。唇を尖らせて恥ずかしそうに返す紅は可愛い。嫌っているだなんてそんな筈はないだろうと思っていたのに、返事を聞いて無意識に小さな安堵の息を吐いていた。


「あたしが恥ずかしがってるだけ…だから…。………ごめんね、若」

「…なら、いい…」


本当は知っている。彼女が自分を避ける理由を二代目が教えてくれていたから。いじらしくて愛おしい理由に胸は熱くなり、彼女の口から直接聞きたいと思った。


「今日は、恥ずかしくても逃げないでくれよな?」


このまま紅を抱き締めてしまいたかったが、指を絡め手を繋ぐ事で我慢する。頭を起こし、ほのかに色づいた頬にそっと口付けて優しく囁いた。


「その服、似合ってる。…可愛い」


恥ずかしいのかそっぽを向いてしまった紅は小さな声で、ありがと、と返した。きゅっと手を握ってくる彼女を愛しく思いながら、若は嬉しそうに笑ったのだった。