コラボ小説 | ナノ
 lunch war 後

次の日、昼休み。
学園の屋上に、紅、若、バージルの三人がいた。


「リアラ、どうしたんだろ?こんなところに集合だなんて…」

「さぁな」

「お前がわからんのなら俺にもわからん」


三人がここにいる理由は、三限目が終わってからの休み時間、リアラからメールが来たためだった。内容は、『お昼休み、屋上に集合』。不思議に思いながらも、三人はリアラの言う通りに屋上に来たのだ。

ガチャリ

「…あれ、お前等もか」

「ネロ!それに、キリエも…!」

「紅達もリアラからメールもらったの?」

「うん。てことは、キリエ達も…?」

「うん。『お昼休み、屋上に集合』って」

「わざわざ俺達を呼んで、何かあんのか?」

「さあ…。あたし達にもわからなくて…」


紅達が首を傾げた時、再びガチャリと音を立てて、屋上の扉が開いた。


「お、みんなお揃いか」

「初代!それに、二代目まで…!」

「初代と二代目もリアラからメールきたのか?」

「ああ。『昼休み、屋上に集合』ってな」

「初代と二代目まで呼んで…リアラ、何するつもりなんだろ?」


紅が首を傾げると、ああ、と初代が答えた。


「もう少ししたらわかるぞ。さっき本人に会ったからな」

「え?初代、理由知ってるの?」

「ああ、見た瞬間にわかった。もうすぐで来ると思うから、楽しみにしとけ」


そう言い、な?、と初代は二代目の方を見る。二代目は微笑んで頷く。
楽しみ?、と初代の言葉 に首を傾げる紅達。
その時、ガチャリと扉が開き、紅達を呼び出した本人が現れた。


「お待たせ!みんな揃ってる?」

「リアラ!」


にっこりと笑いながら姿を現したリアラ。その手には大きな包みがある。


「お、来たか」

「リアラ、その手に持ってる包み何だ?」

「ちょっと待って、そこに置くから」


よいしょっ、と言ってリアラはみんなのいる中心に包みを置くと後ろを見る。


「先生、ここに置いてもらえますか?」

「はいはい。…ったく、人使い荒いな」

「ごめんなさい、たくさん作ったから一人じゃ持つの大変で」


リアラと一緒に現れた髭が彼女の指示通り、包みをそこに置く。
リアラの言葉に、紅が首を傾げた。


「作った?」

「ふふ、ちょっと待ってね」


紅の言葉にリアラは笑みを浮かべると、丁寧に包みを開いた。中に入っていたのは…


「わあっ!」


紅が声を上げる。
リアラが開けた包みの中には、いくつかの大きめのタッパーに入れられたおかずが入っていた。唐揚げ、ポテトサラダ、ナポリタン、アスパラのベーコン巻き−様々なおかずがきれいに詰められていて、どれもおいしそうだ。


「おいしそー!」

「ふふっ、ありがとう」

「お、こっちはサンドイッチか」


若の言葉に紅はそちらへと目を向ける。
若が勝手にもう一つの包みを開けていて、その中には店のパーティーセットで使われているような入れ物の中に具だくさんのサンドイッチが入っていた。
少し呆れながらもくすくすと笑ってリアラが言う。


「勝手に開けちゃったの?若」

「いい匂いしてて、我慢できなかったんだよ」

「それは光栄です。ついでで、入れ物の上にあるお皿と箸、みんなに配ってくれる?」

「おう」


素直に頷き、若はみんなに紙皿と割り箸を配っていく。
リアラはタッパーの蓋を開けながら、みんなに座るように促す。


「あ、飲み物買うの忘れちゃった…」

「ああ、それなら俺が買っておいたぞ」


リアラの呟きに、初代が右腕を上げる。その手には、人数分のペットボトルの入った袋がある。


「ありがとうございます、先生」

「こっちも昼ごちそうになるからな、これくらい何てことない」


そう言い、初代はみんなに飲み物を配っていく。
準備を終えると、全員その場に腰を下ろす。
そして、いざ食べようという時に、紅がリアラに尋ねた。


「ねぇリアラ、何でみんな集めてお昼食べようって思ったの?」


確かに、みんなで食べるのはいいことだが、なぜ突然こんなことをしたのか。
ああ、と頷くと、リアラは説明し始めた。


「昨日の体育の授業が終わった後にね、紅達にお礼にお弁当作ろうかなって思ったの。最初は紅達の分だけ作ろうと思ってたんだけど…」


にこりと笑って、リアラは続ける。


「先生達にも迷惑かけちゃったし、せっかく作るならみんなの分も作って一緒に食べようかな、って思って。だから、ネロとキリエも呼んだの」

「そっか、だから、朝眠そうにしてたんだ…」


今朝、珍しくリアラが眠そうにしていたのはそういうわけがあったのか。
紅の言葉にまあね、と言ってリアラは苦笑する。
若はニヤリと笑って言う。


「じゃあ、遠慮なく食っていいってことだよな?」

「うん、どうぞ。あ、でもその前に、あれを言ってからにしようか」


リアラの言葉に、みんなが頷く。誰からともなく手を合わせて、その言葉を口にした。


「いただきます」


お決まりの言葉を皮切りに、賑やかな昼食が始まった。

***

「これ、うめぇな!」

「ありがとう」

「もう少し落ち着いて食べれんのか、愚弟が」

「でも、この唐揚げ本当においしいよ!バージルも食べなよ!」

「…む」

「リアラ、このポテトサラダには何を入れてるの?」

「ん?ああ、けっこうシンプルだよ。じゃがいもときゅうりだけ。味付けは…」

「初代、そこのおかず取ってくれないか?」

「ん?これか?」

「ああ、サンキュ」

「…シンプルだがうまいな」

「そりゃあ、リアラが作ったもんだからな」


ワイワイガヤガヤと騒がしくも賑やかな食事が続く。ちなみに並びはリアラから時計回りに、髭、二代目、バージル、初代、ネロ、キリエ、若、紅だ。
リアラの右隣りにいた紅が言う。


「リアラ、あれ取って!」

「あれって、オムレツ?」

「うん!」


紅が指差したのは、そぼろ入りのオムレツだ。リアラは紅の皿を受け取り、大きなオムレツを割って皿に盛っていく。
リアラがそのまま紅に渡そうとすると、紅は上目遣いにおねだりする。


「ね、『あーん』ってして!」

「へ?」


紅の言葉に思わず間抜けな顔になるリアラ。それでもなお、紅は上目遣いでこちらを見つめる。


「ね、お願い!」

「…わかった」


負けた、というようにため息をつくと、リアラはオムレツを一口分取り、紅に向かって差し出す。


「はい、あーん」

「あーんっ…んー、おいしー!」


ぱくっとオムレツを口にし、幸せそうな顔をする紅に思わず笑みが溢れる。
紅に皿を渡すと、左隣りからツンツン、とつつかれ、リアラはそちらを見やる。
左隣りにいた髭は自分を指差しながら、リアラに言った。


「なあ、俺には?」

「え?」

「俺には『あーん』ってしてくれないのか?」


髭の言葉に、リアラはびしり、と固まる。
紅が呆れたように言う。


「何言ってんの、おっさん…」

「お前にもやったんなら、恋人の俺にもやってくれてもいいだろ?」

「お、男と女じゃ別です!」


何とか動けるようになったリアラが叫ぶように反論する。
へぇ…と髭は意地悪な笑みを浮かべる。


「じゃあ、二人っきりの時にやってくれるあれは違うのか?」

「あれは『あーん』って言ってな…」


途中まで言って、リアラははっと我に返る。おそるおそる周りを見てみると、全員の目が自分に向けられていた。


「リアラ、やってたんだ…」

「ち、違っ、あれは頼まれて仕方がなくやってただけで…!」

「結局やってんだな」

「〜っ!」

「しかも、保険室で二人で飯食ってる時にな」

「ダ、ダンテさんっ!」

「ふふ、仲がいいのね」

「キリエー…」


あまりの恥ずかしさに、リアラは涙目になる。顔が熱くて、真っ赤になっているのが自分でもわかる。
ああ、穴があったら入りたい。


「…そこまでにしておかないと、本当に泣くぞ」


二代目の言葉に、紅ははっとして慌ててリアラに謝る。


「ご、ごめんリアラ!だから泣かないで!」

「うー…」


スカートの裾をぎゅっと掴み、リアラはポロポロと涙を溢す。
あやすようにポンポンとリアラの背を叩く紅の背後から、若の声が響いた。


「恥ずかしがることじゃないだろ?仲いいってことじゃん」


それに、と若が続ける。


「これ全部、おっさんの好きなもんばっかりだろ?」

「…え?」


若の言葉に紅は目を見開き、リアラは動きを止める。


「若、わかるの?」

「なんとなくな。勘だけど」


そう言うと、若は髭に確認する。


「おっさん、この中におっさんの嫌いなものあるか?」

「いや、ないな」

「じゃあ、好きなものは?」

「全部だな」


ほらな、と若は頬杖をつく。


「たぶんな、リアラは無意識におっさんの好きなもん作ってんだよ。そのくらい、おっさんのことが好きってことだ」


紅はリアラに尋ねる。


「リアラ、これ作る時に何か考えた?」

「…ううん、ただ、思いついたのを、作った、だけ…」


最後には消え入りそうな声で言ったリアラに、その場にいた男子達は思った。


(何つー一途な…)

(…いわゆるベタ惚れ、というやつか)

(あいつ、苦労するだろうな…)

(…時々は助けてやるか)


そして、最後に一致した一言は「がんばれ」だった。
同情する男子達の心など露知らず、髭はニヤニヤしながらリアラに近寄る。


「へー、お前、俺のことばかり考えてるのか」

「っ!うるさいです!しばらくはご飯作ってあげません!おやつに作ってきたクッキーもなしです!」


顔を赤く染めたまま髭に怒ったリアラは若の方を向く。


「若もクッキーなし!しばらくは調理実習も来るな!」

「はあ!?何で俺まで…!」

「うるさい!何もわざわざみんなの前で言うことないじゃないの!」


そう言うと、リアラは紅の方を向く。


「ということで、若の分、紅にあげる。遠慮なく食べちゃって」

「やったー!リアラのお菓子っておいしいんだよねー」


ニヤニヤと笑いながら紅は若を見る。
次いでリアラは二代目と初代を見ると、同じように言う。


「ダンテさんの分は二代目と初代にあげます。遠慮なく食べてください」

「それはありがたいな」

「おー、サンキュー」

「おい、リアラ!」

「ダンテさんはいつも食べてるからいいでしょう?ちょっとは反省してください」


怖いくらいの笑みで笑ったリアラに、髭の顔がひきつる。


「おーおー、やっちゃったねー、おっさん」

「自業自得だろ」

「うるせえ!」

「さ、みんな食べよ。今日のはナッツ入りだよ。バージルとネロが食べれるように甘さ控え目だよ」

「お、サンキュ」

「…すまんな」

「いいよ、気にしないで」

「お、うまい!さすがだな、リアラ!」

「ありがとうございます」

「…これは胡桃か?」

「はい、あとアーモンドも入ってますよ」

「本当においしいわ、リアラ」

「へへ、キリエに褒められると嬉しいな」

「本当においしー。残念だねー、若。おっさんとそこで反省してなよ」

「ちくしょー!」


こうして、端から見たら奇妙な、男子二人を除いた昼食は終了したのだった。
この後数日間、リアラの怒りが治まるまでひたすら彼女に髭が謝っていたのは言うまでもない。