コラボ小説 | ナノ
 lunch war 中

「リアラ、準備できた?」

「うん」


5時限目、体育の授業。
初代に事情を説明し、クラスの男子と勝負することになったリアラ達は校庭にいた。
準備運動をしていたリアラに話しかけた紅は、頷いた彼女をじっと見る。
リアラは普段つけている青色のバレッタではなく、黒いヘアゴムで高い位置に髪を結っている。短パンから覗く脚は色白ですらりとしていて、自分でもきれいだと見惚れてしまう。実際、離れたところで準備運動をしている男子達の何人かもチラチラとこちらを見ている。
紅は苦笑する。


(ただ、見惚れてると痛い目見るんだよなぁ…)


リアラはああ見えて、足技が得意だ。普段若を制するためにやる踵蹴りに始まり、足払い、回し蹴りなどお手のものだ。彼女の父親が体術を得意としているらしく、それなりに運動神経のよかったリアラに護身術として教えたのがきっかけで身体の使い方はかなり上手い。その中でも足の使い方が優れていたため、足技を得意としている、というわけだ。
初めて彼女の踵蹴り(そういえば、この時も若が標的だった)を見た時は、呆然としてしまったものだ。


(体育は男女別々だし、男子はあまり見る機会ないからなぁ…びっくりするだろうなあ)


そう考えていた紅の耳に、初代の声が響いた。


「よーし、全員集まれー!ルール説明するぞー!」

「先生呼んでるよ、行こう、紅」

「あ、うん」


頷き、紅はリアラと共に初代の元へ向かった。

***

全員集まったのを確認して、初代は口を開いた。


「じゃあ、ルールを説明するぞ!あそこに半径2mの円がある。リアラのチームは円の中にいるリアラを敵チームから守ること。リアラは円の中だけ動いてよし、リアラ以外のメンバーは円の中に入ったらだめだ。男子チームはリアラを円の中から引き摺り出すこと。リアラ以外の両チーム、足以外に地面に身体をつけたら円の外で10秒行動禁止。制限時間は30分。わかったか?」


初代の言葉にその場の皆が頷く。


「よし、じゃあ今から10分作戦会議の時間だ。ちゃんと作戦考えろよ!」


10分経ったら合図に笛鳴らすからなー、という初代の言葉を皮切りに、それぞれのチームは作戦を練り始めた。
円を組むようにしゃがみ込み、リアラ達は話し合う。


「基本は円に沿って三人等間隔で立ってた方がいいよね」

「そうだな。フォーメーションとしてはそれが一番いい」

「16人だと…一人5人くらい相手にしないとってことか」

「そうとも限らないでしょ。女子の紅を集中的に狙ってくる気がするけど。まあ、そういうことする奴は余程の馬鹿ね。紅の強さを知らないってことだから」

「そういう奴ほど隙だらけだから、簡単に倒せるよ!」

「でも、気を抜いたらだめだよ。こっちは人数少ないから、一人でも動けなくなったら致命傷だよ。10秒はけっこう痛いよ」

「リアラの言う通りだ。隙を作らないようにするためには、俺達の誰か一人でも動けなくなることを避けないといけない」

「派手には動けない、ってわけか」

「そういうこと。紅、一本背負いとか大技は使わないようにね。時間ロスしちゃうから。技かけてる間に相手が隙間から入ってきちゃうことにもなるし」

「うん、わかった。動きは最小限に、だね」

「あと、あまり自分の持ち場から動くな。余計な体力を使いかねん。どうしても、という時だけにしろ」

「了解」

「これくらい、かな?」

「後は各々の判断に任せる」

「よっし、じゃあ一発気合い入れようぜ!」

「さんせー!」


若が円の中心に手を出す。その上に紅、リアラ、バージルの順で手が重なる。


「行くぞ!」

「おー!」

「うん!」

「…フン」


四人の手が、空に向かって掲げられた。

***

作戦会議が終わり、それぞれが配置につく。


「じゃあ、準備はいいか?始めるぞ」


初代が笛を構える。


「始め!」


ピッと笛の音が鳴り響くと同時に、男子達がリアラのいる陣に向かって雪崩れ込む。


(やっぱり紅の方に来たか…)


男子達の動きを見てリアラは思う。
男子達はダンテ、バージル、紅の方へと三方に別れて向かってきているが、明らかに紅の方に向かっている男子が多い。


「紅さん、悪いけど通らせてもらうよ!」


紅の方へと向かっていた男子達の内の一人が紅へ向かって突っ込む。
紅は男子をかわすようにその場に屈む。わわっ、と声を上げ、態勢を崩したところに、紅は足を引っかける。とっさに反応できず倒れた男子に紅は得意気に笑いかける。


「悪いけど、そんな簡単には通さないよ!」

「紅、次、次!」

「わかってるって、大丈夫、リアラ」


リアラの声に紅は安心させるように笑みを見せると、目の前の男子達へと向かっていく。
リアラは辺りを見回す。ダンテもバージルも大勢の男子相手に余裕の表情で相手している。


(みんながんばってるんだ、私も気を引き締めなきゃ)


ふぅ、と一息吐くと、リアラは自分に向かってきた男子にすばやく足払いをくらわした。

***

ゲーム開始から数十分、何度も男子達が立ち向かってくる中、リアラ達は一度も倒れることなく、奮闘していた。
時間を追うごとに男子達は紅を集中的に狙うことをしなくなり、三人の内の一人を崩そうとして全員で狙ってきたり、仲間の何人かをおとりにして三人が相手している隙に他の男子がリアラのいる陣に入ってきたりと、巧みな作戦を考えてくるようになったが、こっちも上手くチームワークが取れるようになってきて、メンバーの誰かに敵が集中したら助けに行ったり、誰かが倒れそうになったら倒れる前に支えたりと、互いを助け合っていた。


「20分経過ー、残りあと10分だぞー!」


初代の大きな声が響き、リアラはよし!と気合いを入れ直す。


「みんな、あと10分だよ!がんばろう!」

「うん!」

「わかってるって」

「気は抜かん」


三人の返事を聞いて力をもらいながら、リアラは近くに来ていた男子を勢いよく押す。押された男子はバランスを崩し、こちらに向かっていた他の男子も巻き添えに倒した。


「私が倒れるわけにはいかないからね」


にっこりと笑うと、リアラは他の男子を器用にかわし、すばやい動きで男子を翻弄する。
陣にいた男子が全員陣を出た時、見覚えのある男子がリアラに向かって走り込んできた。


「次は俺の相手してよ、リアラさん」

「…あんたか。本当なら触りたくもないんだけど、」


この元凶である彼に、リアラは鋭い眼差しを向ける。


「いいわ。相手してあげる」

「ははっ、嬉しいね」


そう言うと、彼はすばやくリアラの懐に入り込む。腕を掴もうとする彼の手を避け、感心したようにリアラは呟く。


「ふーん、動きは早いのね」

「お褒めに預かり光栄だね」


にっこりと笑った彼はリアラを捕まえようと次々と手を伸ばす。しなやかな動きでそれを避け、とリアラと彼の攻防が続く。
残り5分ほどとなった時、この攻防に動きがあった。
リアラの動きが止まったその隙を見計らって、彼はリアラの後ろに回り込み、そして、


「つーかまーえた♪」

「っ!?」


ガシリと掴まれ、リアラは身動きが取れなくなる。だが、掴まれるというより、これは…


「ちょっと、離して!」

「やーだね♪このまま円の外に出せば、俺達の勝ちだし」

「だからって、こんな捕まえ方ないでしょう!?」


そう、彼は後ろからリアラの腰に手を回していて、まるで彼氏が彼女を後ろから抱き締めているような格好になっているのだ。


「リアラちゃん、脚細いねー、それに、肌すべすべだ」

「…っっ!!」


いつの間にか馴れ馴れしく『ちゃん』付けで呼び、脚に手を滑らせてくる彼に、リアラの怒りが一気に頂点を突破した。


「…気安く、」

「ん?」

「気安く触るな、ナンパ野郎!」


今までにないほど鋭さと冷たさの増した目で彼を睨みつけたリアラは、彼の鳩尾に肘鉄をくらわした。ぐはっ、と顔を歪め、自分から身体を離した彼に、間を置かず、リアラは容赦ない踵蹴りをくらわせた。


「が…っ!」

「ずっとそこで寝てろ、馬鹿が」


地面に倒れた彼を見下ろし、はっ、と鼻で笑うと、リアラは辺りを見回す。一連の出来事を見ていた男子達のみならず、仲間の紅達もこちらを見て固まっている。
リアラは男子達をじとりと睨みつけると、怒りゆえか、低い声で言った。


「…何、来ないの?相手してあげるわよ?」


リアラの視線を受けた男子達はひいっ、と小さく悲鳴を上げ、ザザザッと後退っていく。


(…これは、今までで一番の怒り具合かも)

(…さすが、『冷たい青バラ』と言われただけあんな)

(…巻き添えは、くいたくないな)


それぞれ心の中で呟いた三人は、最後に息ぴったりに一言呟いた。


(((絶対、リアラは怒らせないようにしよう…)))


滅多に怒らない人を本気で怒らせてはいけない。それを改めて思い知った紅達だった。
結局そのまま終了のホイッスルが鳴り、リアラ達のチームの勝利となったのだった。

***

「あー、疲れたー…」

「お、お疲れ様…」


んーっと背伸びをするリアラに、紅はおそるおそる声をかける。
紅の様子に首を傾げたリアラは先程の出来事を思い出し、ああ…と苦笑する。


「ごめんね、怖かったでしょ?」

「まあ、うん…」


何ともいえない顔で返す紅に、リアラは彼女の頭を撫でる。


「ありがとうね、紅。紅のおかげで助かった」


もちろん、若とバージルもね、と言い、リアラは少し離れたところにいる二人を見る。


「まあ、困った時はお互い様、だろ?」

「けっこう楽しめたからな、気にするな」


うん、と頷き、笑顔を見せたリアラに、紅はぎゅっ、と抱きつく。


「紅?」

「私達親友だもん、これくらい当たり前だよ!」


だから、困った時はいつでも言ってね!、と言う紅に、リアラは笑みを深める。


「…うん。ありがとう」


再びリアラの手が紅の頭を撫でて、えへへー、と照れたように紅が笑った時だった。


「…ん?あれ、二代目とおっさんじゃね?」


若の声にリアラは顔を上げる。若の言う通り、二代目と髭がこちらに向かって歩いてきていた。
リアラは二人に駆け寄る。


「先生、どうしたんですか?」

「…ああ、リアラか。色々と大変だったな」

「?」

「あいつ等にちょっとばかり指導しないといけないな。…特に、あの金髪野郎には」

「え?え?」


自分の頭にぽん、と手を置き、すぐに行ってしまった二代目にリアラが首を傾げていると、次いで髭がリアラの頭に手を置き、ぼそりと呟く。
…何か、最後辺りに怒りが込もっていたような…。
二代目同様、すぐに手を離し行ってしまった髭を見つめながら、リアラは悟った。


(…これは、ただじゃ済まないかも…)


そして、リアラの思った通り、双子除く男子生徒達は二代目と髭(この事件の原因の男子生徒の時は、+初代)に指導という名の恐怖を植え付けられたのだった。