▼ white room
「ん…」
小さく声を上げ、リアラは目を開いた。視界一杯に白い天井が映る。
ぱちぱちと目を瞬かせ、リアラは口を開いた。
「…ここは…?」
「リアラ!」
聞き慣れた声が響き、リアラは頭を横へ傾ける。視界に映った親友の顔に、リアラは彼女の名を呟いた。
「紅…?」
「リアラ、リアラっ…!」
よかった…!、と続ける紅は目に涙を浮かべて、リアラの手を握りしめる。自分の手を握りしめる両手が微かに震えていて、リアラは苦笑して空いていた方の手で紅の頬を撫でた。
「ごめんね、心配させて…」
「っ、ううん…」
ふるふると頭を振る紅を落ち着かせるように、リアラは彼女の頬を撫で続ける。
ふと、リアラの頭に温かく大きな手が乗せられた。
「大丈夫か?」
「ダンテ、さん…」
上を見上げると大好きな人の心配そうな顔があって、少し罪悪感を感じながらリアラは頷く。
「…ん」
「ならいい」
そう言い、自分の頭を撫でてくれる手に目を細め、リアラは微かに笑みを浮かべる。
よく見たら、髭の背後に若もいて、髭と同様に心配そうにこちらを見ていた。
「若…」
「おう」
目、覚めたみてえだな、と言う若に、リアラはこくりと頷く。
落ち着いたところで、髭が今の状況を説明してくれた。
「ここは病院だ。あの後、気を失ったお前をここに連れて来て、治療してもらったんだ」
お前、2時間も気を失ったままだったんだぞ、という髭にリアラは呟く。
「そう、ですか…」
話を聞いていて、大切な人達に心配させてしまったと心苦しくなった。
本当に、ごめんなさい…、と俯いて言うリアラに、髭は「お前が謝ることじゃない」と言い、再びリアラの頭を撫でる。
「それほど深い傷じゃなかったから、2、3日もすれば傷口は塞がるそうだ」
ただ、しばらく傷跡は残るらしいが…、と辛そうに言った髭にリアラはふるふると頭を振る。
「そんなの気にしません。助けてくれて、ありがとうございます」
そう言い、微笑んだリアラに髭は目を見開いたが、すぐに優しい笑みを浮かべる。
恋人の温かな優しさに浸っていたリアラは、ふいに視線に気づいて髭の後ろを見た。若が何か言いたげにこちらを見ている。
リアラはしばし思案すると、恋人を見上げ、口を開いた。
「ダンテさん、お願いがあるんですけど」
「何だ?」
「ちょっと喉が渇いちゃって…。何か飲み物買ってきてもらってもいいですか?」
「ああ、いいぞ」
髭も若の様子に気づいたのだろう、すぐに頷く。
「何がいい?」「ミルクティーがいいです」そんな簡単なやり取りをした後、髭は紅に呼び掛けた。
「紅」
「何?」
紅が顔を上げる。髭は病室の扉を指差し、続けた。
「一緒についてきてくれないか?俺一人じゃ人数分は持ち切れない」
「…わかった」
こくりと頷くと、紅は立ち上がり、髭の後について行く。
病室を出る前に一旦こちらを振り向き、紅は微笑む。
「すぐ戻ってくるから、ちょっと待ってて」
「うん」
リアラも微笑み返すと、髭を追って紅は扉の向こうへと消えていく。
二人がいなくなったことで病室はしん…と静まりかえる。リアラは自らの一言で、その静寂を破った。