▼ defense of the girl
風を切る音に痛みを覚悟した紅は、予想に反して痛みを感じない事を不思議に思って顔を上げた。
「リアラ…!」
気づけば、リアラが自分を守るように抱きくるみ、自分の代わりに男の怒りをその背に受けていた。
痛みに顔を歪めながらも紅を守ろうとするリアラへ男は吐き捨てる。
「邪魔すんじゃねぇよ、このアマが…!」
言うなり、ぐい、とリアラの髪を乱暴に掴み引っ張った。その拍子に彼女の髪をまとめていたシュシュが外れ、地面に落ちる。
「っの、野郎…!リアラを放せ!」
眼前の光景に男の暴挙を漸く理解した紅は激昂した。大切な親友を傷付けたその男へ、怒りの拳を喰らわせるべく足を踏み出す。
「来ちゃダメ!」
それを止めたのはリアラだった。これ以上紅を巻き込みたくない。後悔に苛まれた彼女の表情は苦しげで、紅はそれ以上動けなかった。
「っ、リアラ…!」
「それ以上近付くなよ。今からお前の目の前でこいつの髪を切ってやる」
つうっと口角を上げると、男はリアラの髪の根元近くにナイフを添える。
「髪切られて男みたいな髪型にされたら、どんな反応するかなぁ?」
狂気を含んだ男の笑い声を聞きながら、リアラはうっすらと目を開けた。その時、ちらりと視界に入ったのは、自分の鞄につけたブレスレット。
それを見た瞬間、優しいかの人を思い出して、リアラは目を閉じる。
(ごめん、なさい…)
心の中で呟くと同時に、リアラの瞼からつう、と一筋の涙が零れ落ちる。
リアラの唇が音もなくかの人の名を呟いた時、何かに反応するようにブレスレットがキラリと光った。