▼ black shadow
「だいぶ遅くなっちゃったね」
「いろいろ見て回ったもんねー」
でもすっごく楽しかった、と言う紅に私も、とリアラは微笑み、返す。
ランジェリーショップに始まり、服、薬局、靴屋、CDショップ…趣味も交えて様々なところを見て回っていたら時間が過ぎるのはあっという間で、帰路に着くころには夕日が沈み始めていた。
「リアラ、今日はいろいろとありがとう!」
下着とかグロスまで選んでくれて…と言う紅に、リアラはふるふると首を振る。
「ううん、私も久しぶりに紅といろいろ見て回れて楽しかった」
こっちこそありがとう、とリアラが言うと、紅は嬉しそうに笑う。
「紅に似合いそうと思ってた帽子も買えたし、本当によかった」
紅の手に提げられた紙袋の一つを見て、リアラは言う。
出かけるきっかけになったあの帽子も見に行って、二人であれこれ相談した結果、赤にすることにした。ちょっとした差し色にいいし、紅に似合うから、という理由だ。
リアラの言葉に、紅は頷く。
「うん!今度遊びに行く時に被るね!」
「うん、楽しみにしてる」
楽しいおしゃべりをしながら、このまま寮に帰り着くはずだった。
だが。
「…リアラ、気づいてる?」
ふいに紅が眉を潜めて話しかけてきた。うん、とリアラは頷く。
「…誰かが、ずっとついてきてる」
そういい、リアラはちらりと後ろを見やる。二人から数メートルほど離れた距離に、黒い服を着た男がいる。男は、二人から姿を隠すこともせずに、ずっと二人の後をついてきている。
「あいつ、昼間からずっとついて来てる」
「え、嘘!?」
後ろを見たまま、リアラは続ける。
「喫茶店から出た時にちらっと見かけて、そこからずっと…」
その後、靴屋を出た時もあの姿を見かけて、偶然かな、と思っていたのだが、行く先々で見かけて、自分達について来ている、とリアラは確信した。
「無視しとけばいいかなと思ってたけど、そうもいかなそうね…」
このままだとずっとついてくる、とリアラが言うと、紅は不快そうな顔をした。
「気分悪い…あたしあいつに一言言ってくる」
「だめだよ、紅」
身体の向きを変えようとした紅の手を掴み、リアラはなるべく小さな声で静止する。
「そんなことしたら、あいつ、何をしてくるかわからない」
「でも…!」
紅の目を見つめ、リアラは続ける。
「この近くに交番があったはずだから、このまま気づかないふりをしてそこに行こう。交番に入れば、さすがにもうついてこないだろうし」
ね?とリアラに促され、迷いながらも紅が頷いた時だった。
ザッ
「「!」」
後ろから地を蹴る音が響き、二人は後ろを振り返る。
男が、先程よりも早い足取りでこちらに近づいて来ている。
(気づかれた…!)
先程、紅が後ろを振り返ったことであちらも気づいたのだろう、どんどんと距離を縮めてくる。
紅の手を握りしめ、リアラは叫んだ。
「走るよ、紅!」
少しでもあの男から離れなければ。
二人はその場から駆け出した。