コラボ小説 | ナノ
 delight pastime

開店したばかりの店内は、休日と言えど客の姿は無い。ライブハウス『Crazy Sound』は、昼間は喫茶店として営業している。紅と待ち合わせをしたリアラはソーダフロートを時折口へ運びつつマスターと他愛も無い会話を交わしていた。


「相変わらずきっちり10分前に来るんだねぇ」


マスターの言葉にリアラは苦笑を返す。


「もう癖になってるんです」


もっと遅く来てもいいのに、と紅にはよく言われるけれど。良い事じゃないか、とマスターは笑ってくれた。


「おはよーございますっ!」


と、待ち合わせ時間きっかりに扉が開き元気の良い紅の声が店内に響く。バイトをしている為かこうして大きな声で挨拶するのが癖になっているらしい。


「おはよう、紅」

「いらっしゃい、おはよう」


リアラとマスターの挨拶に笑みを返した紅は、上機嫌でリアラの隣の席へ腰を下ろした。


「なんかリアラと待ち合わせするなんて久しぶりな気がする」


寮が隣室という事もあって、二人はかなりの時間を共にしているので待ち合わせをするのは新鮮だった。今日も一緒に出掛けるのかと思ったが、リアラの提案で待ち合わせをする事にしたのだ。曰く、準備に時間がかかるから、と。そんなリアラの服装は薄手のニットワンピースにジャケット、ストッキングに編み上げのブーツで、サイドの髪は三つ編みにして後ろで纏めてある。青い薔薇の描かれたシュシュに気付いた紅は顔を綻ばせた。


「今日はお揃いだね」


そう言って彼女が左手を掲げると、手首には赤い薔薇の描かれたシュシュ。色違いでお揃いのシュシュは、二人のお気に入りだった。


「久しぶりだから色々見て回ろうね!」


リアラと二人でじっくり買い物出来るのが嬉しくて自然と声も弾んだ。折角だからと、紅は普段着ないリボン付きの白いシフォンブラウスを着てみている。黒のベストと、ベージュのショートパンツにアーガイル柄のニーハイと黒いブーツを合わせ、変じゃないかな?とリアラに聞いたら笑顔で可愛いと言ってもらえてホッと胸を撫で下ろした。


「そろそろ行こっか」

「うん!」


リアラの誘いに大きく頷いた紅は、立ち上がった時キラリと光るものに気付く。
それはリアラの鞄につけられたブレスレットだった。艶消しされた繊細な銀の鎖で、中央にボタンくらいの大きさの水色の石をバラの形に彫ったものがついている。バラの左側にビーズくらいの大きさの半透明の水色と白の石が飾られていてとても綺麗だった。


「それ、綺麗だね」

「………、うん」


少し間を開けて頷いたリアラの頬は桃色で、その表情はとても穏やかで柔らかい。きっと彼女にとってとても大切なものなんだろう。


「楽しんでおいで」


朗らかなマスターの言葉に見送られて、二人の休日が始まった。

***

「色々あって迷うなぁ…」


通りにあるランジェリーショップにて、リアラは目の前に並ぶ様々な商品と睨めっこしていた。パステルカラーのものから原色で目がチカチカするような物まで展示されていて、なかなか視線が定まらない。彼女の小さな呟きを聞き逃さなかった紅はすかさずリアラの眼前に自分のオススメを掲げた。


「これなんてどう!?」


満面の笑みの彼女の右手には豹柄の下着が。左手にはレースたっぷりの白いベビードール。透け感のあるそれはセクシーを通り越していて、見ただけでも顔が赤くなる。


「もう…!紅っ!」

「ぷっ…あははっ!冗談だってば」


勝負下着の定番って書いてあったから面白くてつい、と声を抑えて笑う紅に溜め息を吐いて顔を上げたリアラは、ふと気になる商品を見つけた。柔らかな色合いの水色に薄い紫のレースは大人っぽさがあるのに可愛らしい。


「あ、かわいー」


後ろから覗きこんできた紅も同じように思ったらしい。彼女は感想を言いつつ両手を回し、突然リアラの胸を鷲掴んだ。


「ひゃっ!?」

「そういえばリアラって何カップ?」

「く、紅…?」

「ていうか腰細いよね〜」


などと言いながら今度は腰を撫でられる。何をしてるの、と聞きたいところだが恐らく紅は何気なくやっている行為なのだろう。今でも時々、こうして突拍子もない行動をする彼女に驚かされる。


「…とりあえず、手を離してもらっていい?」

「はーい」


もしかして彼女は若のセクハラのせいでその辺りの境界線が曖昧になっているのかも知れない。今度学校で若に会ったら少しばかり(踵蹴りという名の)指導をしておこうか、なんてリアラが考えていると紅がぽつりと零した。


「…あたしも、カワイイの買おうかな…」


今までは動き易さくらいしか気にしてこなかったけれど。可愛らしく着飾るのが苦手な紅は、今まで幾度も女の子らしい服や小物を諦めてきた。可愛いと思っても自分に似合う自信もなく、若に笑われるのが怖いと憧れるだけにしていた時期もあった。しかしリアラと親友になってからはこんな風に少しずつ心に変化が生まれるようになってきたのだ。


「リアラ、選ぶの手伝ってくれる?」


気恥ずかしくておずおずと頼んでみると、彼女は優しく微笑んで頷いてくれる。


「ありがとっ!」


ギュッと抱きついて礼を言った彼女は、楽しそうに店内を歩き始めたのだった。

***

次に二人が来たのは、薬局の化粧品売り場。


(えーっと、あれは…)


きょろきょろと辺りを見回していたリアラは、お目当てのブランドの化粧品コーナーを見つけて駆け寄る。


「あったあった!」


かがみ込み、リアラが見ている化粧品は、『trick』というブランド。シンプルながらもかわいらしい入れ物に派手すぎない色合いのグロスやネイルが入っている。
リアラが夢中になっていると、後ろで紅がくすりと苦笑した。


「リアラ、本当にこのブランド好きだね」

「うん」


ここの化粧品、派手すぎなくていいし、とリアラは答える。
新作のグロスを手に取りながら、何かを思いついたのか、リアラは紅の方を振り向いた。


「そうだ、紅もつけてみたら?」


せっかく紅が勇気を出してかわいい下着を買ったのだ、ちょっとした化粧品…グロスにもチャレンジしてみてもいいと思う。
リアラの言葉に、紅は慌てて首を振る。


「ええっ!?あ、あたしはいいよ!」


似合わないし…と紅が小さく溢した言葉に、リアラは首を振り、彼女に向かって優しく微笑む。


「そんなことないよ、紅はかわいいよ」


それにね、とリアラは続ける。


「つける前から似合わないって諦めてたら、もったいないよ」

「リアラ…」


紅はリアラを見つめると、やがて目を細めて、うん、と柔らかく微笑んだ。


「紅に合いそうなの私が選ぶから、紅は私に合いそうなの選んでくれない?」

「うん!」


そうして二人はおしゃべりを楽しみながら、お互いに似合いそうなグロスを選び始めた。